くらしとおやつ「Northfields(ノースフィールズ)」のキャロットケーキ
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
・・・
「久しぶりに予約営業をします」と、Instagramのストーリーズの投稿。
土曜日か。久しぶりにキャロットケーキを食べに行こうかな。そう思って予約画面を開くと、空いているのは大きなテーブルの席一つのみ。迷っているうちに、「満席となりました」の新しい投稿がストーリーズに上がった。
仙台市青葉区国分町、晩翠通り沿いの一角に立つ古いビルの3階、「Northfields」というカフェを4年前に開いたのは、イギリス人のJamesさんと日本人の夏海さんご夫婦。
ビルの入り口に下がった看板が「open」の時、期待を込めて上の階に上がると、既に何人ものお客様が入店を楽しみに待っている、というのが見慣れた光景だ。
コロナ禍で、予約営業やオンラインでのケーキ作りワークショップなどを展開しているが、どれもあっという間に埋まってしまうことからも、その人気ぶりが窺える。
お店の扉を開けるや否や、鼻腔をくすぐるスパイシーで甘い香り、そして追いかけるように挽きたてのコーヒーの香り。入ってすぐの木のカウンターの上に置かれたガラスのショーケースには種類豊富な焼き菓子が並んでいて、白いペンでガラスに直接書かれたケーキの名前から、その味を想像するのも楽しい。毎度お目当てを想定しながら来るが、予想外の焼き菓子を見つけてその場であっさり予定変更もしゅっちゅうだ。
私がNorthfieldsのおやつを好きな理由は、味はもちろん食べ応えのあるサイズ感にもある。どのケーキもしっかりとした厚みや高さがあり、生地がぎゅっと詰まっていて、小麦やナッツ、ドライフルーツなどの素材の味が濃い。熱い紅茶や濃いめのコーヒーとの組み合わせは絶妙だ。
Northfieldsの看板メニューでもあるキャロットケーキには、誕生秘話がある。
夏海さんがイギリスに住んでいた頃、どのカフェにも必ずと言っていい程並んでいたキャロットケーキ。「どんな味なんだろう?」と思って食べたのをきっかけに、見よう見まねで自ら作ってみたそうだ。
当時夏海さんが住んでいたシェアハウスの共用キッチンは小さく、必要最低限の機能。もちろんケーキをつくる器具はなく、にんじんはすりおろすこともできず刻んで入れただけ。ケーキにかけるチーズフロスティングもなし。
そうやって手探りで作ったのが、今のNorthfieldsのキャロットケーキのルーツとなっている。
意外にも、夏海さん自身は甘いものが特別好きという訳ではないそうだ。オリジナルのレシピで作られる焼き菓子のラインナップは、何度も試作し、スパイスの効き具合や甘さの加減を調整するという。それが故に、甘いもの好きだけではない、幅広い層に愛されるおかしが生み出されるのだ。
Northfieldsだけではなく、仙台でも色々なお店で見かけるようになったキャロットケーキは、今やおしゃれなケーキの代名詞だが、私にとっては懐かしい気持ちになるおやつである。
それは、子どもの頃に母が作ってくれたホットケーキには、いつもすりおろした人参と干しぶどうが入っていたから。
スパイスの風味やチーズクリームこそなかったけれど、素朴な材料で作られるキャロットケーキには、小さい頃に食べたホットケーキを重ねてしまう。
そもそもキャロットケーキのはじまりは、戦後のイギリスで砂糖が貴重だった頃に甘さを出すために人参を入れて作られたというから、当時も各家庭で作られた、素朴なおやつのひとつだったのではないか、と想いを馳せる。
皆の憧れのお店でありながら、Jamesさんと夏海さんのお二人は気負いがなく、いつお会いしても謙虚だ。だからこそ、2月13日の深夜、東日本大震災を思い起こすような大きな揺れで割れてしまった器の数々に、心を痛めた人も多いだろう。
「おしゃれなカフェ」と一言で括られてしまうのはもったいないお店が、仙台には沢山ある。Northfieldsもまた、#Northfields をつけたSNSの投稿から窺い知れるものは少なすぎる。
きっとお店に訪れる人それぞれにお気に入りのポイントがあるはずだ。店内の雑貨やリース、時間帯で変わる雰囲気、テーブルの質感、椅子の座り心地。
色々な方が、Northfieldsでの幸せな時間を噛み締められるように、未曾有のウィルスを含めて、世の中の状況が良くなっていくよう心より願う。
・・・
Northfields Sendai
仙台市青葉区国分町1丁目3−13 遠藤ビル 3F
営業時間などはinstagramでご確認ください
instagram @northfieldsjp