くらしとおやつ 「JAM CAFE(ジャムカフェ)」のスコーン
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
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友人との約束は夕方。
時間まで、久しぶりに一番町四丁目商店街をぶらぶらすることにした。
以前、「くらしとおやつ 仙台、アーケードのおやつ」で書いた、私の子どもの頃のお店の並びから変わってはいるものの、現在も老舗の暖簾を守り続けているお店は数多い。
定禅寺通側のアーケード入り口の角にある「梅原鏡店」は、創業明治44年。あらゆる種類の鏡が店内にずらりと並び、前を通るとつい外から覗いてしまう。
そのお隣は「文具のキクチ」。文房具はもちろん、紙の種類も豊富で1枚から買えるので、デザインの仕事の材料探しにお世話になっている。
アーケード中央あたり、明治30年創業「いたがき」の軒先にはいつも形の良い果物が並び、数寄屋造の建物が印象的な「福寿司」は、その威厳ある店構えに前を通るだけで背筋が伸びる。
傘の専門店「東京洋傘」では、度々傘を買っている。
「頑丈な作りに大雨もしのげる大きさで、且つ持ち手と柄が可愛い傘が欲しい」という、ピンポイントすぎる私の希望をピタリと叶える傘に出会ったのもこのお店だ。大きさ強度共に申し分なく、木の持ち手で、傘の柄はダークグリーンのタータンチェックというお気に入りだったのだが、悲しいかな、バスの中に置き忘れてしまったきりお別れとなってしまった。新しい傘もまたここで買おうか思案している。
「鞄を買うならここ」という地元のお得意様も多いといわれる「カバンのコミナト」は、創業明治20年。ちょうど新しい鞄が欲しいと思っていたので、お店に入ることにした。
店内の棚いっぱい所狭しと並んだ鞄は、流行や売れ筋といった世の中の潮流に合わせて並べているわけではないようで、良い意味で時間が止まったかの様な雰囲気だ。
婦人用・紳士用問わずバリエーションも数も豊富、見るからに掘り出し物がありそうで気分が高まる。
気になったいくつかを吟味していると、お店の女性が「お客様が手にとってくださったものは、全て同じ工房で作っているものなんですよ」と教えてくださった。
本革でしっかりとした作りにも関わらず、圧倒的に買いやすい値段だが、大阪の工房で作られているそうで、いわゆるブランド名が付いていないための価格設定だそうだ。
女性は付かず離れずの距離感で、入荷したばかりだという同じ工房の新作の鞄を出してくれた。大きさ、革の質感、使いやすさ共にまさに希望を満たした一点。連れて帰ることにした。
ありそうでない作りの鞄ですねと言うと、「色々なデザインを試行錯誤されたようで、これまでとは少し雰囲気の違うデザインが上がってきたんです。そう言っていただけて工房の方も喜ぶと思います。伝えておきますね。」そう言って女性は、深々とお辞儀をされた。
白地に赤の文字で店名が入ったレトロな紙袋と温かい気持ちを抱え、友人との待ち合わせ場所へ。一番町四丁目商店街のちょうど真ん中あたり、ビルの2階にひっそりと佇む「JAM CAFE」だ。
大学生の頃、年上の女性に連れてきてもらって以来の来店なので、あれから早10年以上が経つ。JAM CAFEもお店をはじめて10年以上が経つというから、あの時開店して間もない頃だったのだろうか。当時、お店によく来ているというその女性がうんと大人に思え、私も将来こんな風にさらっとカフェに来られたらな、と思ったことを思い出す。
照明を落とした店内には、間隔を置いてテーブルと椅子が配置されている。各々形も色も違っていて、赤と黒がアクセントになっているようだ。店内奥の壁には、ロートレックの作品を思わせるモノトーンの洒脱な絵が飾られている。
JAM CAFEは、5人以上の来店をお断りしているというが、それぞれの席の周りだけを照らすテーブルランプの明かりが、お客さんごとの境界をやんわりと守ってくれているようで心地良い。
友人と私は、観葉植物が眺められる窓側の角の席についた。眼下にアーケードを行き交う人が見えるが、誰もこちらを見上げることはなく、ここでも守られているような安心感がある。
注文を済ませ、一息つきながら友人と近況報告をはじめると、キッチンから生クリームを泡立てる小気味好い音が聞こえてきた。店内は私たちの他に女性のお客さんが一人、壁際の席で静かに過ごしている。
運ばれてきたブレンドコーヒーは、大学病院前にお店を構える珈琲専門店「Cafe de Ryuban」のものだ。シックな草花の模様のカップで運ばれてきたそれは、テーブルランプの明かりでつやりと光り、立ち上る湯気と香りにほっと心が解ける。
白いお皿に乗った今日のスコーンは、プレーンとココア。
スコーンはシンプルなお菓子故、お店によって様々なカラーがあるが、JAM CAFEは、シュークリームの皮の表面のようにごつごつとした凹凸のあるタイプである。
手で割って口に入れて噛めば程良く歯ごたえがあり、さくさくとしたクッキーのような食感。泡立ててくれた白い生クリームを少しつけて頂けば、クリームサンドクッキーのようだ。ココア生地の方はほのかに懐かしい甘い風味がした。
ゆっくりとコーヒーとスコーンを味わいながら、ひとしきり会話に興じ、どれくらい時間が経ったのだろうか。キッチンからは、明日の仕込みだろうか、何かを炒めている香りが漂ってくる。
私たちはどちらともなく腰を上げ、お会計に向かった。スタッフの方々は皆、マスクをしていてもしっかり微笑んでいることが伝わってくるが、終始、絶妙な距離感で接してくださったのも心地良い。
階段を降りてアーケードに出ると、通りの喧騒が戻ってきて、一気に現実の時間の流れに引き戻された。
買い物も、カフェで過ごす時間も、余韻が残る時は、欲しいものを買えた、美味しいおやつが食べられた、それだけではないように思う。
こちらのテリトリーに踏み込まないけれど、受け入れてくれていると感じるお店の方の良い塩梅の距離感。流行やお客さんの顔色を伺うのではない、そのお店ならではの大切にしている空気感。数値化できないものこそが余韻となって残っていく。
地元の人が足を運ぶような普段づかいの場所が、今の大変な時節だけではなく、これまでも仙台で根を張り踏ん張ってきたことに、拍手を送らずにはいられない。
次回、JAM CAFEに訪れる時は、新しく買った鞄に文庫本を入れ、あの席で読書をしたい。
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JAM CAFE
仙台市青葉区一番町4丁目5−20松葉屋ビル 2F営業時間などはinstagramでご確認ください
Instagram @jamcafe_jp