イチからわかる宮城県美術館 その魅力と楽しみ方をご紹介
仙台の中心部から広瀬川にかかる橋を渡った自然豊かな環境に立地する、宮城県美術館。敷地と館内をめぐりながら、展示品や施設、建築や庭など、その魅力と楽しみ方を取材しました。
仙台駅から約15分。緑豊かな景観に溶け込む美術館
宮城県美術館は、広瀬川から西側の「川内」に位置します。周辺には仙台城址のある青葉山、仙台市博物館や東北大学川内キャンパス、仙台第二高校などがあり、緑豊かな環境と街の歴史を感じることができる地域。宮城県美術館は、その景観とゆったりとした空気の中に溶け込むようにして立地しています。
美術館へ行くには、地下鉄東西線「国際センター駅」か「川内駅」から徒歩7分。仙台市営バスなら「二高・宮城県美術館前」で降り、徒歩3分。電車でもバスでも、仙台駅から美術館まで15分ほどで到着することができます。駐車場も広いので、車で訪れることも可能です。
日本近代建築の巨匠・前川國男の建築と遊び心ある彫刻
宮城県美術館が建設されたのは1981年。建物は、フランスでル・コルビジェに師事し、日本のモダニズム建築の巨匠として全国で数々の建築物を手がけた建築家・前川國男の作品です。敷地内には広々とした庭があり、宮城県出身の彫刻家・佐藤忠良の作品をはじめとした多くの彫刻が配置されています。落ち着きのある建築の色味や庭の設計と個性あふれる彫刻の作品たちが見事に調和し、遊び心さえ感じるようなユニークな空間が広がっています。
何でも作れる「創作室」、「映える」庭…館内をくまなくご紹介
美術館を訪れたことのある方でも、その敷地をくまなく回ったことがあるという方はそう多くはないのではないでしょうか。館内の各スペースをめぐり、その特徴をご紹介します。
エントランスホール
ゆったりとしたピロティを抜けて館内に入ると、開放感ある吹き抜けが印象的なエントランスホールが広がります。建築の中心となっており、展示室や創作室、図書室、庭など、美術館の各施設に続く起点となっています。
一階の左に見える入り口が、美術館の所蔵する作品を展示している「常設展」の展示室です。宮城県美術館では宮城・東北の芸術家の作品を多く所蔵しているほか、パウル・クレーなど海外の作品も収集しています。階段を上った二階は「特別展」の展示室です。訪れたときは「アイヌの美しき手仕事」の展示が開かれていました(2020年3月15日まで)。
創作室
ここまでは訪れたことのある方が多いと思うのですが、知られざる驚きの施設はこちらです。一階の展示室のより奥の通路を進んでいくと「創作室」の文字が。
この「創作室」、扉を開けるとありとあらゆる工具や画材、機材が並んでいます。学校の美術室を思い出すようなこの創作室は、なんと誰でも予約不要で無料で利用することができる施設。絵画や版画、陶芸、彫刻、Tシャツのプリント、溶接に至るまでさまざまな画材・機材が揃い、小さいハンドメイド作品から巨大な芸術作品までをこの部屋で作ることができます。機材の使い方がわからなければ常駐の職員が教えてくれるとのことで、まさに至れり尽くせりです。
図書室
「図書室」では、芸術に関する本や雑誌、過去の展示会の図録などを自由に閲覧することができます(貸し出しは不可)。
造形遊戯室
「造形遊戯室」には積み木や絵本などが並んでおり、子供が遊べるスペースとなっています。訪れた日も親子で遊ぶ姿が見られました。
レストラン・ミュージアムショップ
1階のエントランスホール近くには、ミュージアムショップやレストラン「カフェ モーツァルト フィガロ」があります。レストランだけを目当てに訪れる方も少なくないという、人気のお店です。
佐藤忠良記念館
本館の隣には、宮城県出身の彫刻家・佐藤忠良の作品が展示された「佐藤忠良記念館」があります。この建物へは、本館からつながる通路で行くこともできます。一面に大理石が使われているのが印象的です。
アリスの庭
そしてこの「本館」と「佐藤忠良記念館」との間にあるのが、彫刻庭園「アリスの庭」。佐藤忠良記念館の外壁の全面が、美しいアーチ状の鏡となって風景を反射します。本館の外壁側にはユニークな形状の階段もあり、そこにウサギやネコなどさまざまな動物の彫刻が置かれ、不思議な空間に迷い込んだ気分になります。彫刻を楽しむのはもちろん、面白い風景の写真が撮影できるので、穴場の「インスタ映え」スポットとも言えます。
北庭
美術館の北側にも庭園があること、ご存知でしたか?アリスの庭を抜けると、広瀬川が見下ろせる「北庭」に出ます。フェルナンド・ボテロ「馬に乗る男」や新宮晋「時の旅人」といった彫刻作品を鑑賞することができます。
県内初の公立美術館として愛される美術館
宮城県美術館は1981年に、県内で初の公立美術館としてオープンしました。当時の県内には公立の美術館がなく、宮城県の美術関係者らが中心となり、市民から県立美術館を求める声が高まったことが後押しとなって設立されたとのこと。その後彫刻家・佐藤忠良から県への作品の寄贈の申し出があり、1990年に佐藤忠良記念館が開館しました。
大きな特徴の一つは、日本のモダニズム建築の第一人者である前川國男による建築です。「美術館は建物が主役なのではなく、あくまで作品が主役」という考えから、作品が引き立つようなデザインで設計されたそう。周囲の自然環境を考慮して設計されており、景色と調和した静かな場所にたたずむ美術館として地域の人々から愛されてきました。
地域の美術や芸術家を応援し、紹介する
美術館では年間を通して、所蔵品を展示する「常設展」と、全国の巡回展などの「特別展」の2種類の展示が開かれています。宮城県美術館では明治以降の近現代美術を収集しており、宮城県出身の洋画家・渡辺亮輔や日本画の太田聴雨、青森県出身の版画家・棟方志功など宮城・東北の芸術家の作品が中心となっています。抽象絵画のカンディンスキーやパウル・クレーなどの海外作品も充実しており、クレーのコレクション数は国内美術館では最大(35点)。年に4回程度開かれる特別展では、ゴッホやピカソといった誰もが知る画家の展示から地域の芸術を紹介するものまでさまざまで、特別展の内容によって来館する世代層もがらりと変わるそう。
美術館として大切にしている価値は「宮城、東北といった地域の美術や地元の作家さんを応援し、ご紹介すること」だといいます。宮城県美術館は独自企画の「アートみやぎ」を2019年までに5回開催し、宮城県にゆかりのある若手の現代アート作家の作品を展示しています。この展示に出展した作家が県の芸術選奨を取るなど、宮城県の新しい才能を発掘する場所にもなっています。
誰もが作品を作ることができる「創作室」も全国的に珍しい施設で、この美術館の大きな特色の一つとなっています。夏休みの宿題で工作を作りに来る親子から、大きな彫刻作品を作るために毎日通う彫刻家まで、地域のさまざまな人が利用しているそう。こうした環境の整備も、地域の芸術を応援し活動を盛り上げる、大切な取り組みの一つです。
それぞれが好きな過ごし方を見つけられる場所
敷地内の何気ない風景や施設にもさまざまな工夫が施されている宮城県美術館。展覧会を訪れるのはもちろん、創作室で作品作りに没頭することも、庭を自由に散策することも、レストランで静かに時間を過ごすこともできます。アリスの庭や館内各所のタイル張りの外壁など、最近はインスタ映えスポットとして訪れる方も少なくないのだとか。展示を見るだけでなく、訪れる人それぞれが好きな過ごし方を見つけてくつろげる、そんな憩いの場所といえそうです。
宮城県美術館
仙台市青葉区川内元支倉34-1
Tel:022-221-2111
休館日 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合その翌日)
開館時間 午前9時30分~午後5時(チケット販売は午後4時30分まで)
https://www.pref.miyagi.jp/site/mmoa/
撮影:はま田 あつ美