03 暮らす

【聞くまち・大町】自然豊かな街中で、夢が膨らむ一杯のコーヒーを

- 2019.05.24
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【聞くまち・大町】自然豊かな街中で、夢が膨らむ一杯のコーヒーを

仙台駅から地下鉄東西線で2駅。大町西公園駅を降りると、いつも自然と深呼吸をしてしまう。すぐそばには広瀬川、その向こうに青葉山。流れる空気は澄んでいて、青葉通の端に位置するこの場所には静けさもあるから、街中でありながら来るたびに心が落ち着くのだ。

駅を出て、青葉通のひとつ内側、歴史ある「大町通り」をまっすぐ進むと、コーヒーを煎るなんとも言えない美味しい香りが漂ってくる。駅出口から徒歩わずか30秒ほどの場所に店を構える「珈琲豆屋ベートーベン」。36年前からこの大町で変わらずコーヒー豆を販売する石濱啓史さんとまりさん夫妻に、大町という街での暮らしを伺うことにした。

大町西公園駅を出てすぐ内側の通りが、江戸時代から残る道「大町通り」
大町西公園駅を出てすぐ内側の通りが、江戸時代から残る道「大町通り」
歴史ある大町通りに店を構える「珈琲豆屋ベートーベン」
歴史ある大町通りに店を構える「珈琲豆屋ベートーベン」

歴史の面影を残す「しっとりした」まち

珈琲豆屋ベートーベンは1983年、大町にオープン。コーヒー豆店での手伝いを経て、啓史さんが27歳のとき独立し、まりさんとともにこの大町に店を構えた。「それまでインスタントコーヒーが主流だったのが、自分で豆を買って、ミルなどのコーヒー器具を揃えてみようかな、というスタイルがようやく始まり出した時代。コーヒーの捉え方は、今とは全然違いましたね」と、まりさんは振り返る。

石濱まりさんと、お店の看板犬・カイザー君
石濱まりさんと、お店の看板犬・カイザー君
店内には各国の厳選されたコーヒー豆がずらり
店内には各国の厳選されたコーヒー豆がずらり

江戸時代は仙台城のある青葉山から下ってすぐの城下町の入り口だった大町は、仙台藩の御用商人の街として賑わってきた。時代が変わるにつれ、街の中心が一番町や仙台駅周辺に移ってからも、大町には活気ある商店街が残っていたという。まりさんは「お店を始めたころはこの辺も、昔ながらのスーパーのような個人商店、お医者さん、電器屋さんなど、生活に必要なものが一通り揃う商店街でしたね」と、かつての街の姿を懐かしむ。

「自分が店を始めた場所ですからね、思い入れは大きいですよ。当時から繁華街ほどごちゃごちゃしていなくて、人混みもない。そんな、しっとりした感じがいいなと思っていました。今は昔と感じも変わってきたけど、大町自体は本当に好きですよ」と、啓史さん。

仙台駅前から一直線に続くアーケード商店街。駅から歩いて「マーブルロードおおまち商店街」を抜けてもなおまっすぐ進むと「大町通り」、そして仙台城址へと道がつながっている
仙台駅前から一直線に続くアーケード商店街。駅から歩いて「マーブルロードおおまち商店街」を抜けてもなおまっすぐ進むと「大町通り」、そして仙台城址へと道がつながっている
一番町の目と鼻の先でありながら、静けさと落ち着きを保つ大町通り
一番町の目と鼻の先でありながら、静けさと落ち着きを保つ大町通り
明治12年創業の「上村豆腐屋」など老舗も残る
明治12年創業の「上村豆腐屋」など老舗も残る
リーズナブルにフレンチを楽しめる「シェ・アルモ二」など、現在は根強いファンの多いこだわりのレストランや居酒屋が点在するエリアとなっていて、昼も夜も楽しめる
リーズナブルにフレンチを楽しめる「シェ・アルモ二」など、現在は根強いファンの多いこだわりのレストランや居酒屋が点在するエリアとなっていて、昼も夜も楽しめる
「器と雑貨 ボタニカル」など、個性的なお店が集まるビル「ファーストステージ」
「器と雑貨 ボタニカル」など、個性的なお店が集まるビル「ファーストステージ」
青葉通には、ビルを一棟リノベーションし、カフェ、ショップ、レンタルスペースを備えた複合施設「1TO2 BLDG.」も誕生。新しいお店や施設の姿も見られる
青葉通には、ビルを一棟リノベーションし、カフェ、ショップ、レンタルスペースを備えた複合施設「1TO2 BLDG.」も誕生。新しいお店や施設の姿も見られる

赴任で仙台に来たコーヒー好きも虜に

お店を開いた36年前からコーヒー豆は卸売はせず、この大町の店舗での販売のみ。開店時から通い続ける常連客も多いほか、単身赴任や大学進学で仙台に住み始めてからファンになり、異動や卒業で仙台を離れた後もお店から豆を取り寄せ続ける人も少なくないという。仙台のコーヒー好きを虜にするそのこだわりを、啓史さんに聞くとーー。

「こちらが飲み方や楽しみ方を強要するんじゃなくて、お客様がおいしい、と言ったものが『THE コーヒー』になる。ただそれだけです。ただ、うちはそのために、『おいしい』の根拠を持っていなくちゃいけない」


世界各国から仕入れる豆は、そのシーズンにいい豆を生産している農園の情報を得て、品質のいい豆だけを入荷。入荷した豆は機械でいい豆を選別した後、人の目と手で、さらに良質な豆のみに厳選する。その上で、大切な過程が「焙煎」だ。豆が育てられた環境や豆本来の持ち味を理解し、最適な煎り方を考える。例えば酸味が特徴のキリマンジェロやエチオピアは、豆本来のフルーティーな味わいを引き出せるように。味も香りも柔らかいクリスタルマウンテンやブルーマウンテンは、焙煎を強くすると苦味が出るため、ふわっとした味わいが引き立つ加減でーーといったふうに。

「100%同じにはならないし、そのブレを少なくするようにしているけど、まだまだ未熟ですよ。でももしかしたら、そのブレを楽しんでいる常連さんもいるのかもしれないね」

コーヒー片手に「西公園」でゆったりした時間を

最高の一杯を、今日はどこで味わおう。そんな楽しみがあるのが大町での生活だ
最高の一杯を、今日はどこで味わおう。そんな楽しみがあるのが大町での生活だ

コーヒー豆のほか、店頭では一杯200円(マイカップ持参で180円)の破格の安さでドリップコーヒーも提供しているベートーベン。「朝、出勤前にご利用される方もいますし、近くの職場の方が昼休みに買いにいらっしゃることもあります。西公園へ行く方がお求め下さることも多いですよ」と、まりさん。お店から歩いてすぐの西公園は、休日にコーヒーを持って出かけるのにぴったりの場所。単身者でも家族でも、美味しいコーヒーを楽しむゆったりした時間を中心部にいながら過ごせるのが、大町の大きな魅力だ。

仙台のお花見会場といえば西公園。お花見シーズンには屋台が並び賑わう。桜が散った後も、公園にはピクニックに訪れる団体や家族連れ、カップルの姿が
仙台のお花見会場といえば西公園。お花見シーズンには屋台が並び賑わう。桜が散った後も、公園にはピクニックに訪れる団体や家族連れ、カップルの姿が
蒸気機関車のある「西公園SL広場」
蒸気機関車のある「西公園SL広場」
西公園には遊具も豊富で、休日には家族連れも多い。一人でゆっくり過ごす人、カップルで散歩する人、ダンスを練習する大学生、などそれぞれが思い思いの時間を過ごしている
西公園には遊具も豊富で、休日には家族連れも多い。一人でゆっくり過ごす人、カップルで散歩する人、ダンスを練習する大学生、などそれぞれが思い思いの時間を過ごしている
西公園内には100年以上の歴史を誇る「源吾茶屋」が。自家製のおもちなどお茶のメニューのほか、ラーメンなどのお食事メニューもあり幅広い
西公園内には100年以上の歴史を誇る「源吾茶屋」が。自家製のおもちなどお茶のメニューのほか、ラーメンなどのお食事メニューもあり幅広い
西公園は仙台西道路を挟んで南北に分かれている。西道路からは秋保温泉や東北道への入り口も近く、車を持っているなら大町はお出かけするのにも便利
西公園は仙台西道路を挟んで南北に分かれている。西道路からは秋保温泉や東北道への入り口も近く、車を持っているなら大町はお出かけするのにも便利

ペットとの暮らしを楽しむ人も多いまち

「ベートーベン」の店名の由来は、お店を始める前から飼っていたセント・バーナードの名前から。以来セント・バーナードを飼い続け、現在は5代目の「カイザー」君がお店の看板犬を務めている。お店のロゴやオリジナルグッズ、写真やぬいぐるみ……お店の内外に歴代のセント・バーナードの姿があり、文字通りお店の「看板」の役目を果たしている。

5代目看板犬のカイザー君
5代目看板犬のカイザー君
お店にはセント・バーナードの姿がたくさん
お店にはセント・バーナードの姿がたくさん
歴代看板犬の写真も
歴代看板犬の写真も

「ここにお店に構えたから犬を飼えたし、だからお店を続けられているのかも。一番町や中央通りでセント・バーナードを飼うなんて無理だろうけど、ここなら飼いやすい環境が周りにあるでしょう。落ち着いていて人混みがなくて、中心部だけど外れで、すぐ散歩できる西公園が近くにあって。そういう環境だったからこそ看板犬を飼い続けてこられましたね」と、啓史さんは話す。

大町は街中でありながらペット飼育可の賃貸物件もあるためか、青葉通や西公園では犬を散歩する人の姿がよく見られるし、ペットフードが充実しているコンビニも多い。

自然豊かで敷地の広い西公園は犬を散歩させるのにぴったり
自然豊かで敷地の広い西公園は犬を散歩させるのにぴったり
仙台城址へ続く道を散歩したりジョギングしたりする人の姿も
仙台城址へ続く道を散歩したりジョギングしたりする人の姿も
そばを流れる広瀬川には、仙台城址へと続く大橋がかかる
そばを流れる広瀬川には、仙台城址へと続く大橋がかかる

「夢を描けるコーヒー」を提供する店でありたい

歴史の面影を残す自然豊かな大町に店を構え、仙台の人々に愛され続けるベートーベン。啓史さんが追求するのは、飲んだ人が「夢を描ける」コーヒーなのだという。

「コーヒーは、いいものを出して当たり前。その上になにかお客様が夢をつくれればいいなって思うよね。例えば慶長遣欧使節をテーマにしたこのコーヒーは、支倉常長がバチカンに行ったときに現地にはまだエチオピアとモカしかなかったというエピソードから、モカだけでつくったもの。これを飲んだ人が、常長がバチカンで飲んだコーヒーってこんな味だったのかな、っていう、夢をつくれればいいじゃない。バッハをテーマにしたこのコーヒーなら、バッハがコーヒーハウスで飲んでいた風景はどうだったんだろうな、って。味がよくて、その上で飲んだ人が夢をもてる、何かしらイメージを描けるような、そういうものでありたいと思うよね」



たった一杯から夢を、想いを膨らませていく。そんなコーヒー豆屋さんのある大町には、今日も美味しい香りがふわりと風に乗って漂ってくる。



珈琲豆屋ベートーベン
住所:〒980-0804 仙台市青葉区大町2-4-8
TEL:022-225-6996
営業時間:9:00〜18:00
定休日:日曜・祝日
http://beethoven-coffee.com/

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