【聞くまち・一番町】フォーラス横のいつものカフェで、待ち合わせて過ごす休日
大通りの銀杏並木が色づき、日の短くなっていく街で、道ゆく人も肩をすぼめて通り過ぎていく。銀杏の葉が落ちるころには仙台はぐっと寒さを増し、つんとした冬の空気に変わる。
じゃあフォーラス前集合ね、で伝わるほど仙台の象徴的なショッピング施設「仙台フォーラス」がある一番町は、今も昔も仙台の中心部。その仙台フォーラス隣の建物3階には、43年前から変わらず営業するカフェがある。街の中心で仙台のカフェ文化を育んできた老舗「カフェ・モーツァルト」の善積建介さんに、一番町という街でお店を続ける思いを聞いた。
仙台のカフェ文化を育てた立役者
「カフェ・モーツァルト」へは、人ひとりが通れるくらいの急な階段を上っていく。扉を開けると、柔らかで深い色合いで統一された木製の家具や床、色も形もそれぞれだが不思議と絶妙な調和が取れたソファが並び、おしゃれだけれど肩肘を張らずにリラックスして過ごせるような居心地のいい空間が広がっている。
「仙台駅からは少し離れた一番町へ来て、それもわざわざ急な階段を登って来なければいけない。それだけの価値を提供したいですね。この先にどんなお店があるんだろう、こんなところにお店あったんだ、そういう、チェーン店にはないようなワクワクした気持ちを感じてもらえたら」と、善積さんは語る。
1976年にこの場所で店を開いたのは、建介さんの父・建郎さん。ヨーロッパを度々旅行し現地のカフェ文化に触れていた建郎さんは、会社員生活を経て30歳のとき、仙台で当時まだ珍しかったカフェをいち早く開店した。店名の「モーツァルト」は、オーストリア・ウィーンで音楽家のモーツァルトの名前を冠したカフェに複数出会ったことから。建郎さんは現在オーナーとなり、長男の建介さんと次男の俊介さんが経営を引き継いでいる。
「ヨーロッパで出会ったカフェ文化を仙台にも根付かせたい、という思いだったそうです。父は写真を撮っていたこともあり、店内に写真を飾り、ヨーロッパを旅行している気分になれるような場所にしたい、とも考えていたようですね」と、建介さん。
やっぱりここがセンター・オブ・センダイ
カフェ・モーツァルトの面白さは、利用する客層の幅広さだ。43年前の開店以来訪れる年配の常連さんもいれば、友達を誘って来店する10代の若者の姿も。一人で読書に集中するために、買い物帰りに友達と、夜に飲んだ後の大人の社交場として……。利用シーンや世代層の広さは、あらゆる人々が行き交う一番町という街をそのまま体現しているかのようだ。
「特にターゲットを絞らないのがこのお店の特徴であり、よさかなと思います。50、60、70代の人が来てもこのお店は若すぎるな、と思われないし、若い子でも友達を連れてきてよかったな、と思える。そういうバランス感覚が重要なのかなと思います」
アーケード商店街が続き、仙台三越や藤崎など地元に根ざした百貨店も集まる一番町。近年は再開発が進んだ仙台駅周辺も新たなショッピングスポットになっているが、海外ブランドショップも地元資本の老舗商店も同居していて独特の景観が生み出されている一番町は、「やっぱりここがセンター・オブ・センダイ」と言いたくなる。
仙台駅からはアーケードを歩いて約15分、地下鉄を使うなら仙台駅から2駅の東西線「青葉通一番町駅」。仙台市役所、宮城県庁、週末のたびにイベントがある勾当台公園にも近く、東北随一の繁華街・国分町は目と鼻の先。仙台の主要スポットならどこへ行くにも便利だ。
買い物も飲み屋も。路地裏でディープなお店に出会える楽しさ
自宅も近く、子供の頃から一番町のさまざまなお店に親しんできたという建介さん。今もお店で使う野菜や果物などは、アーケード商店街のお店で仕入れているのだとか。
「昔はこの辺りにあったおもちゃ屋さんに行ったり、本屋さんに行ったりしていました。最近はチェーン店も増えましたが、まだ昔ながらの個人店も多いんです。今は駅前に行けば買い物も用が済んで便利かもしれませんが、服を買うにも路面店ならではの店づくりや雰囲気が楽しめるし、大きいテナントにはない面白みがあるのが一番町のよさだと思いますね」
アーケード商店街には大きなアパレル店舗や百貨店もあるが、アーケードから横道に入ると個人のセレクトショップや古着屋など思わぬところに個性的なお店があり、自分好みのお気に入りのお店が見つかれば仙台での生活はぐっと楽しくなりそうだ。
一番町のアーケードからは細い小径や、戦後に形成された「横丁」へと続く入り口が複数ある。一番町四丁目商店街からは「東一市場」、サンモール一番町商店街からは「文化横丁」や「壱弐参(いろは)横丁」。整備された商店街から小径に入るだけで、昭和にタイムスリップしたかのような個人の飲食店がひしめく不思議な空間を体験できるのが楽しい。
都会ながら、人と人とがつながれる温かさのあるまち
居心地のいい空間づくりを心がけているカフェモーツァルトの店内では、常連さん同士が自然と仲良くなり交流が生まれることもあるのだそう。都会でありながら大規模すぎない仙台の街の中心部は、人と人とのつながりが生まれるのに程よい規模感なのかもしれない。
「一番町の商店街は人と人とのつながりが密だと思いますし、昔ながらのお店も新しいお店も交えてまちをよりよくしていこう、と切磋琢磨するような雰囲気があると思います。(お店のある)ぶらんど〜む一番町商店街では七夕のときに人形劇の出し物をしていますし、サンモール一番町商店街ではマルシェを開催するなど、新しい試みにも挑戦していますね」
絶えず変わりながら、ずっと変わらず愛されるお店を
1976年から一番町に店を構え続けるモーツァルト。開店当初から変わらぬ「モーツァルトブレンド」は、深煎りで重みのあるヨーロッパ系のコーヒー。チーズケーキやショコラ・ド・モーツァルトなどのケーキも、初期からの根強い人気メニューだ。
一方で、最近ではフォーやグリーンカレーなどのアジア系のフードメニューにも挑戦している。店内も実はつい最近、家具の配置や内装を大幅にリニューアルしたというのだが、変わったことを感じさせない自然さがカフェ・モーツァルトという店のユニークさだ。
「家具選びも消耗するものではなく、古さが味になるようなアンティークを選んでいます。最近カウンターの天板を真鍮にしたのも、経年変化で味が出てくるから。改装も何回かしているんですけど、お客さんに『変わっちゃったね』と思わせないよう、昔の雰囲気を残しています。アーケードのお店は変わってしまうこともあるけど、昔のお客さんが来ても懐かしくほっとできる空間であり続けたいと思いますね」
街にとって「変わらない」安心できる空間でありながら、絶えずお客さんを飽きさせない工夫を繰り返し変化を続ける。一番町という仙台の中心地から始まったカフェ・モーツァルトは、今では仙台市と名取市に6店舗を構える、仙台を代表するカフェになった。
「仙台はなかなか観光地がないから、お店が観光名所にならないといけないのではないかと思うんです。そこが『目的地』になるようなお店、連れて行ってよかったなと思える店づくりをしたいと思っています。長くやってきたけれど、いいところは残しつつ、新しい変化もしながら、末長くいろんな人に利用してもらえるお店になりたいですね」
カフェ・モーツァルト
仙台市青葉区一番町3-11-14丸和ビル3F
tel. 022-263-4689
営業時間:
[日〜木] 11:00~22:30
[金・土・祝前日] 11:00~23:00
http://mozartatelier.jugem.jp/