【聞くまち・八幡町】伝統と新たな活気が交差する、まちの文化交流施設
仙台市役所のある街中心部から西へバスで10分ほど揺られ、山形へと続く古くからの街道・作並街道に入る。バスを降りた瞬間から空気がすうっと澄んでいて、歩きながら目に入る住宅や街並みはどこか懐かしい。国宝・大崎八幡宮の門前町として栄えた歴史から、今でも独特の文化と雰囲気を持つ八幡町。初詣や「どんと祭」で賑わう冬、このまちの暮らしについて伺おうと、八幡町の文化活動の拠点施設「八幡杜の館」を訪ねた。
住民みんなでまちづくりに取り組む結束力
「八幡杜の館」は八幡町の大通りから脇道に入り、坂道を下っていく途中に建つ。かつて作並街道沿いにあった老舗「天賞酒造」の築200年以上とされる建物を仙台市が移築し、今では施設の運営を地域住民自らが担う、まちの文化交流拠点だ。一年を通して、常設展のほかに市民が企画する展示会や演奏会、お祭りなど、多様な催しが開かれている。
運営するのは八幡町の住民でつくる「八幡地区まちづくり協議会」。「八幡杜の館運営委委員会」を設置して館の管理や運営をボランティアで行うだけでなく、住民らで策定した八幡町のまちづくり計画に沿い、年間を通して、お祭り「どんとロード八幡雀踊り」の企画実施や、まちの神社仏閣、商店街や学校を巻き込んだ交流事業、防犯活動など、まちづくりに関するあらゆる活動と実践を続けている。
地域の住民が進んでまちづくりに主体的に関わる八幡町独特の雰囲気の理由を、八幡杜の館運営委員長の北田一浩さんはこう語る。
「何とも言えない、八幡町という地盤があるね。お寺や神社、お店や学校なども地域と関係してみんなで一緒になって伝統を受け継いでいるから、そういう根強い、醸し出されるような伝統とか、雰囲気がある」
仙台藩の「門前町」として栄えた、歴史を感じるエリア
八幡町がまちづくりの柱に据えているのは「歴史を個性としてはぐくむまちづくり」だ。まちの名前の由来でもある国宝「大崎八幡宮」の社殿は、伊達政宗が仙台に城を築く際に大崎市から移され建設された、安土桃山時代の貴重な建造物。同じく仙台築城に合わせて八幡町に移った「龍寶寺」もあり、国指定重要文化財の釈迦如来立像が祀られる。大崎八幡宮は正月の「どんと祭」の裸参りや、秋の「どんとロード八幡雀踊り」といった地域の伝統行事が開かれる場所でもあり、今でも八幡町の中心的存在となっている。
「八幡町は大崎八幡宮や龍寶寺を中心とした『門前町』である、というのがまちづくりの中心にある考え。どんと祭の裸参りやすずめ踊りといった八幡様の行事には、地域の小学校や中学校も商店会も、みんなで参加できる雰囲気をつくっていますよ」
八幡町は、政宗の命で仙台のまちづくりの基盤として造られた用水路「四ツ谷用水」がわかりやすい形で確認できる地域でもあり、まちの坂道を下っていくと広瀬川に向かって流れる水の音が心地よく耳に入ることがある。八幡杜の館でも四ツ谷用水をめぐるまち歩きのツアー企画や展示を開いているほか、八幡町の小学校などでも四ツ谷用水を学ぶ地域学習の時間を導入しているのだそう。NHKの人気番組「ブラタモリ」で紹介されたことでも話題を呼び、歴史やまち歩きの好きな人から人気の高いエリアでもある。
学生が地域で活躍できるまち
八幡町は、仙台市立八幡小学校、仙台市立第一中学校、聖ドミニコ学院(小中高)、尚絅学院(中高)、宮城第一高校と、小学校から高校まで学校が密集しているエリアだ。東北大学のある川内や青葉山にも近いことで大学生も多く住む「学生のまち」としての一面もあり、歴史あるまちの土台の上で学生たちが新鮮な活気を生み出している。
「学生がとっても多いまちなんです。まちで学生が、派手じゃないかもしれないけどいろんな活動ができるように、そして一緒に活動して、卒業するときに『いいまちだったな』と思ってもらえるようにすること、そういうことをもっとしていきたいですね」
八幡町では小学生から大学生までが住民とともに地域でイベントや企画などに取り組む動きが活発だ。例えば春に八幡杜の館で開かれる「さくらまつり」では、町内の小中高校が集まって合唱や吹奏楽の演奏をしたり、東北大や東北福祉大の学生がボランティアに訪れたりと、地域住民と学生たちが一緒に地域行事に参加し、一体となってまちの住みやすい雰囲気を作り上げている。
豊かな自然に、まちの伝統と文化が調和する
温泉街の作並や、山形に通じる作並街道の入口としても栄えた八幡町。仙台中心部からすぐの場所でありながら自然豊かで、すぐ南には広瀬川や青葉山も。生まれも育ちも八幡町の北田さんもこのまちでの暮らしを「とても住みよく、なにより自然がいい」と話す。
「持って備わった自然と、その中に成り立つまちの歴史や教育、文化がうまいこと支えあい、調和して機能している。お寺や神社が多く落ち着いた雰囲気がもともとあって、浮ついていない。それを大事にしようというのが住民の中に基本的にありますね」
八幡町から南に歩き澱橋から広瀬川を渡ると宮城県美術館や仙台市博物館はすぐ。牛越橋は成田山仙台分院や亀岡八幡宮もある川内に続く。北田さんは自然と伝統が息づくこのエリアを「仙台北西部という文化圏として文化を残していかなければいけない」と語る。
「八幡町は、まだまだいいまちになる」
現在は「八幡杜の館」として利用されている建物「天賞酒造」が建っていた場所には今、スーパーやレンタルショップ、飲食店などが入る商業施設「レキシントン・プラザ八幡」が建つ。旧作並街道を挟んで向かい側にも大型スーパーや郵便局があり、生活の利便性が高いことで新たに仙台に住む人々にも人気のエリアになっている。
昨年オープンしたばかりの書店「曲線」やカフェ「くまと文鳥」など、旧作並街道沿いには個性的な新しいお店も次々登場している。最近では商店街が一体となってまちを盛り上げようと、若手が中心となって八幡町の魅力をSNSで情報発信する「八幡町ファンコミュニティ」という活動もスタート。歴史や伝統を学びながら、新たな企画でまちの活性化をはかろうとしている。
「外から来たお店もなんとなくこのまちの色に馴染んでいく、というか。それがこの辺にある力なんだろうな。おもしろいね。まちづくりを先輩から受け継ぐ若い人たちも、昔のことを研究しながら新しいことに取り組みたいと話していて。みんなこのまちの雰囲気が好きで、崩したくないんだろうなと思います」
この土地で培われてきた自然と歴史の連続性を尊重しながら、お寺や神社、学校、商店街、町内会といった地域で暮らすあらゆる人たちが一体になってまちづくりに関わる八幡町。車ではなく歩いて楽しめるまちづくりをすること、「どんとロード八幡雀踊り」で今年から新しい企画に挑戦すること、学生がもっと地域に関われる体制を作ること……北田さんからはさまざまなまちづくりのアイデアが飛び出すが、その発想はまちを変えるのではなく「守る」という意識から来ているのだという。
「まちの変わらない『いいところ』を、ずーっと、このままにしたい。そうすると、仙台の中でも一番、ああこういう街あるんだ、と注目されるまちになるはず。歴史や伝統を『守る』『こらえる』というのは、実はとてもパワーが必要なことだから」
まちづくりの夢が描かれた大きな資料を開きながら、北田さんは微笑む。「八幡町は、まだまだいいまちになると思いますよ」
八幡杜の館
宮城県仙台市青葉区八幡三丁目1‐11
022-211-7077
営業時間
毎週木曜日から日曜日10:00~16:00
(閉館日:月・火・水曜日)
http://hachiman-mzk.com/02_morinoyakata/index.html