02 食べる

くらしとおやつ シュトーレン

- 2020.12.24
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くらしとおやつ シュトーレン

おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。

・・・

今年は12月になっても暖かいね、なんて悠長なことを言っていたら、驚くほどの冷え込み。朝、妙に外が明るいなぁと思ったら、外は真っ白だった。
例年雪は降るものの、仙台の中心部はほとんど積もらないが、今年のさらさらの雪はあっという間に路面をふかふかにした。

普段から車を運転するが、雪道運転は慣れずに本当に怖い。この日はどうしても車移動が必要な用事があり、帰り道は慎重にゆっくりゆっくりアクセルを踏む。車の暖房の温度を一番高いHIにしても、外が寒すぎてなかなか暖まらない。

ラジオからは、SEKAI NO OWARIの『silent』が流れている。
この曲といえば、今期のTBS系のテレビドラマ『この恋あたためますか』の主題歌だ。
コンビニスイーツ開発に携わるヒロインのラブストーリーのようで、作品の中で開発したスイーツが実際にコンビニの店頭に並ぶという、2度美味しい展開になっている。私はドラマを観ていなかったが、メインビジュアルのキャッチコピーが印象に残っていた。

「今年はいろんなことがありました。甘いものは、人を幸せにします。」

このコピーを考えた方を存じ上げないが、きっと色々な案を出して、その中から採用されたものなのだろうな、などと現実的なことを思うと共に、良いコピーだなぁと感じ入る。

そうだ、本当に今年はそれぞれにとっていろんなことがあり、沢山考えた年だったであろう。色んなことに負けそうになったり、辛くなったりしただろう。それでも、甘いものでふっと気が紛れたり明るい気持ちになれたりしたことがあったのではないだろうか。

しかし、そんな仰々しく言わずとも、普段からおやつの恩恵にあやかっている私、助手席の紙袋に目をやった。紙袋には、久しぶりにお会いした知人からいただいたおやつが入っている。「シュトーレンを作ったの。良かったら食べてね。」

シュトーレンとは、ドイツで食べられてきた伝統的なクリスマスのお菓子で、ブランデーに付け込まれたドライフルーツが生地に練りこまれている。ケーキよりパンに近いような感覚で薄くスライスしていただくのだが、本場ドイツでは、クリスマスイブの4週間ほど前から少しずつ食べながら、クリスマスを楽しみに待つという習慣があるそうだ。

ドライフルーツに目がない私、そのドライフルーツがたっぷり入ったシュトーレンは、紛れもなく私も大好物で、毎年12月にいただくおやつだ。

ようやく車内が温まり始めた頃、車は自宅の駐車場に着いた。
安全運転で帰路に着いたことにほっとしてエンジンを切ると、待ちきれずに助手席の紙袋の中を覗き込む。透明の袋に入ったシュトーレンには深紅のリボンがかけられ、留シールには可愛らしい赤い靴下の絵が描かれていた。

紙袋を携えて駆け足で家に入り、はやる気持ちをなだめながらしっかり手洗いうがいをして、やかんでお湯をわかす。
丁寧に包んだセロファンをはがせば、真っ白の粉砂糖をまとったシュトーレンが現れた。形といい、まるで、雪にすっぽり覆われた今朝の車のようだ。
包丁で薄くスライスすると、こぼれ出すドライフルーツやナッツ。薄くスライスした時に、ドライフルーツが生地からはみ出すようなら、具がぎっしりの美味しいシュトーレンの証だ。きれいにさらっと切れてしまうシュトーレンは、残念ながら具が少なく、勝手ながら少し落胆してしまう。

ストーブをつけたばかりの部屋はまだ寒く、沸騰したやかんの蒸気がもくもくと台所を包んだ。暑い紅茶を淹れて、お皿にシュトーレンを並べる。

テーブルに着くや否や、ぱくり。ほろほろとこぼれる粉砂糖の質感。ほろっと崩れる生地、そして口の中に、洋酒の芳醇な香りが広がった。
熱々の紅茶を啜ると、はぁぁ……と深いため息が出た。幸せのため息である。「甘いものは、人を幸せにします。」ドラマのコピーの通りなのだ。

おやつが好きだ。今年も何度となくこう思っただろうか。
今年も残りわずかだが、このシュトーレンのお陰で乗り切れそうだ。丁寧にセロファンを包み直して、次のおやつの時間にとっておく。日が経つにつれてブランデーが生地に馴染んで深い味わいになっていくのがシュトーレンの醍醐味。もっぱら、そこまで残しておけるかどうかが問題なのだが。

テレビをつけると、ちょうど『この恋あたためますか』の最終回の予告編が流れていた。
クリスマスシーズンらしい、あたたかくて甘いラブストーリーのようだが、はて。いきなり最終回を観るのは反則だろうか。

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