くらしとおやつ お茶とお茶請け
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
・・・
ある朝ゴミを出しに外へ出ると、ひんやりさらっとした空気に変わっていて、思わず深呼吸した。秋は突然やってきた。
氷をたっぷり入れたアイスコーヒーをあれほど飲んでいたのに、飲みたい気持ちがぱたっと止んだ。体は間違いなく別のものを欲している。
そう、お茶が美味しい季節の到来だ。
朝はほうじ茶が飲みたい。
起きがけにはまず台所に行って、やかんでお湯を沸かす。たっぷり飲みたいので、急須ではなく大ぶりのティーポットで淹れる。茶葉を入れたポットに沸騰したお湯を勢い良く注げば、中で茶葉が元気よく踊る。顔を洗って着替えている数分がちょうど良い蒸らし時間となる。
コップに注いだお茶にふぅふぅと息を吹きかければ香ばしい。冷ましながらちょっとずつ口に運べば、喉元過ぎて胃袋がふわんと熱くなる。おはよう、おはようと、体の隅々にお茶の温みを行き渡らせて、自分の体を起こしていくような感覚だ。
コーヒーは飲む頻度が高くなっても嗜好品という感覚が強いのに対して、お茶は生活に欠かせない飲みもので、その時の気分に合わせていろんな茶葉を選ぶのも楽しい。
昨今、手軽に飲めるペットボトルのお茶の進歩は目覚ましくとても美味しい。しかし、お茶を「淹れる」という一連の動作が、生活の中でちょっとしたリセットになるのが好きなのだ。
さて、お茶請け、という言葉があるように、お茶とおやつは切っても切れない。
あくまでお茶を引き立てるもので、量は多くなくて良い。でもあると嬉しいのがお茶請けだ。
先日、知人から食用ほおずきをいただいた。
包み紙のようながくに包まれた小さな黄色いミニトマトのような食用ほおずき。最近注目が集まっていて、「フルーツほおずき」や「ストロベリートマト」などの異名もあるという。
豆皿に2~3粒乗せて、朝のほうじ茶のお茶請けにした。
口に放り込んで実を噛むと、ぷちっと弾けてパイナップルに似たフルーティな甘さが口に広がった。食感はまさにミニトマトだ。
食用ほおずきの旬は夏の終わりから10月頃まで。季節を感じられるお茶請けはとても嬉しいものだ。
昼は緑茶を淹れる。
ほうじ茶と違って、緑茶は熱湯で淹れると甘みが出ない。沸かしたお湯を少し冷ました頃にゆっくりと急須に注ぐことで、緑茶の甘みが出る。
そういえば、頂き物の「とらや」の羊羹があったっけ。
羊羹といえば「とらや」だ。老舗ならではの正統派の和菓子を作り続けながらも、パリへの出店やフランスのパティシエ、ピエール・エルメとのコラボなど、あっと言わせる時代性にも事欠かない。
一口大の羊羹をお皿に乗せるな否や、つやっと黒光りする様にはっとする。苦みの中にお茶の甘みが楽しめる緑茶と、お茶請けの羊羹のしっとりした甘さは、絶好の食後の眠気覚ましだ。
おすそ分けをお茶請けにすることは多いかもしれない。
「ほんの少しだけれど」「もらい物なんだけど」そんな枕詞がついても体は前のめり、興味津々。大抵そこには福がある。
夕方、とある打ち合わせで出向いた先で、先方のもらい物をお茶請けにいただいた。
煎茶に添えられたマスカットとぶどうは凍らせてあり、アイスキャンディの様に冷たい。そこに熱々のお茶を口にひと含みして、瞬間解凍された甘酸っぱい果肉を味わう。美味しくて話が弾み、だいぶ長居をしてしまった。
帰宅後、たまたまぶどうのおすそ分けをしたのが知人だと分かったので、美味しかったと連絡すると、「自分が作ったぶどうじゃないのに、なんだかご縁がつながってうれしくなりました!ちなみに今日は『ぶどうの日』ですしね。」と返信がきた。
そうか、今日は「ぶどうの日」だったのか。おすそ分けついでにそんな豆知識の福を得る夕暮れ。
さて、仕事のメールをチェックして夕飯の支度を、とその前にそば茶でも淹れますか。
お茶請けに、昨日漬けたきゅうりの浅漬けを一片、塩分を補給して。
やかんを沸かしている間、洗濯物を取り込みにベランダに出ると、外は朝よりも一段とひんやりとしている。すっかり暗くなった空に、オレンジピールのような橙色の三日月がぶら下がっていた。
オレンジピールチョコもお茶請けに良いんだよなぁ。
・・・