くらしとおやつ「meeting house(ミーティングハウス)」のアフォガート
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
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20歳の頃。友人が「デートの待ち合わせはいつもカフェでしている」と言った。
「へぇ、そのままお茶するってこと?」と尋ねたら、「とりあえず軽くコーヒーとか注文して待ってて、彼が来たら少ししてそのお店は出るかな。」とのこと。
その後は、別のお店でご飯を食べて買い物をして、またカフェで一休みするんだという。
その話を聞いて私は、なんてリッチなんだ、と思ったのを覚えている。
勉強も出来て、バイトもてきぱきこなし、働いたお金で遊びもデートもバランスよく楽しんでいる可愛い友人が、非常にまぶしかった。
当時の私はといえば、飲食店のバイトを始めたのはいいけれど、非常に忙しいチェーン店を選んでしまったためにバイトに行くのが億劫だった。月数回しか入れなかったシフトで仕事に慣れるはずもなく、当然、バイト代も貯まらない。
当時は憂鬱の種だったが、今となっては笑い話、良い思い出だ。
社会人になって、当時より自由にやりくりできるお金と時間が増え、待ち合わせをカフェでするようになった。
カフェで人と待ち合わせて、そのままそこで打ち合わせをすることもあれば、次の予定までぽっかり空いた小1時間、待ち合わせに近いエリアのお店に入ることもある。
コーヒーとおやつをお供に本を読んでいる時、贅沢だなぁ、大人になったなぁと思う。
「meeting house」というお店ができたと聞いた時、なんていい名前なんだと思った。
オープンして間もない頃、その名前にあやかり、お店で打ち合わせをすることにした。
上杉の住宅街、民家の間に挟まれた無造作な芝のスペース。地図を確認すると、どうやら芝の奥の四角い倉庫がお店のようだ。一見カフェらしからぬ名前のお店が、カフェらしからぬ場所にある。一目で気に入った。
入り口には、形も大きさも様々な石が並べられていた。顔が描かれているものもある。
店内に入ると、ほの暗い。外の日差しと打って変わってひんやりとしている。元の倉庫の作りを生かした店内は天井が高く、天井から釣り下がる小さなペンダントライトがぼんやりと店内を照らしている。ハイチェア、ソファ、テーブル席それぞれの間隔が広く開放的だ。
カウンターでアイスカフェラテを注文をして、コンクリートの壁沿いのテーブル席に腰掛ける。テーブルには、ささやかな野の花が生けられていた。
店内を改めて見回すと、細かいところがとても楽しいお店だと気づく。
壁に立てかけられたアコースティックギター、調理用のスペースは、DIYしたかのような小さな木の家のようになっている。店先の石たちといい、お店の秘密基地感をさらに盛り上げている。
お店に行って私が必ず見るのは、本棚やラック。お店のオーナーの趣味嗜好が出る場所だ。近寄って見てみると、どれどれ……コンクリートの壁沿いをボードで滑る男性の写真の表紙に、赤いタイトルは『BOARDKILL』とある。スケートボードカルチャーのフリーマガジンで、バックナンバーもいくつか置いてあった。ニットキャップにオーバーサイズのTシャツとパンツ、オーナーの方のファッションにも頷ける。
程なくして、お店の扉の向こうに待ち人が歩いてくるのが見えた。来る人は一様に「ここ?」という表情をして入って来る。私も初めて訪れたにも関わらず、「そうここ、いいでしょ?」と、秘密基地を共有するような気持ちになるのが楽しい。
その日の打ち合わせはとても有意義だった。
お店の雰囲気がリラックスさせるからか、脱線話も大いに広がり、相手の考えていることや想いが深くまで見えた気がした。シェアしたスコーンも、おやつにちょうど良かった。
ある梅雨入り前の抜けるような青空の日、次の予定までぽっかり空いた1時間。久しぶりに「meeting house」へ自転車を走らせた。
少し伸びた芝に自転車を停めると、お店の前でばったり知人と出会った。
「まるで待ち合わせしてたみたいだねぇ」とお互いに言い合って、一緒にお茶することにした。
まずはカウンターで注文。自転車移動で汗をかいたから、冷たいアイスコーヒーが飲みたい。そしておやつは……アフォガートがある!気温25度以上限定メニューらしい。即決。
一番大きいテーブル席に着いて、知人は、一緒に来ていた友人を紹介してくれた。一度お会いしたことがある方だったので、今回改めて自己紹介をし合った。
普通であれば、軽くあいさつしてそれぞれの席につくところだけれど、このお店の雰囲気がそうさせてくれるのか、途端に打ち解けてしまうのが不思議だ。
運ばれてきたアイスコーヒーで喉を潤すと、さっきまでの汗がみるみる引いていく。
そして目の前に、アフォガートが参上。
ガラスの器に乳白色のアイスクリームが2つ、惜しげも無くかけられたエスプレッソが器の底にもたまっていて、ソースというよりもはやフロートになりそうな位の椀飯振舞いだ。
エスプレッソとアイス、ちょうどよい分量をスプーンですくって口に運ぶと、意表を突かれた。アフォガートといえばバニラアイス、と勝手に思い込んでいたが、エキゾチックな甘みはココナッツフレーバーだ。組み合わせがニクい。エスプレッソも苦すぎずほんのり甘酸っぱい風味で、クリーミーなアイスに絶妙に溶けていく。
あっという間の小一時間、体温を下げてくれたアイスコーヒーのコップは水滴の汗をかいている。短い時間ながらも弾んだ会話に、アフォガートが一役買ってくれたのかもしれない。これぞアイスブレイクではないか。
うれしい知人とのばったりに、予想外の味の出会い、「meeting house」が引き合わせてくれた幸せ。仕事の話も、はじめましての会話も、リラックスして広げてくれる雰囲気。帰る頃には誰もがきっと、弾んだ会話の時間を振り返りながら、良い場所見つけたぞ、と思っているに違いない。ここはカフェというより、知る人ぞ知る楽しい秘密基地と呼びたい。
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meeting house
仙台市青葉区上杉2-35-17営業時間:Instagramをご確認ください
定休日:火曜日Instagram @meeting__house