くらしとおやつ きなこ餅
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
・・・
2020年師走、有難いことに色々な場で声をかけていただき、ようやく仕事を納めたのが30日。久しぶりに学生時代の友人とお茶をしながら、日が暮れるまで喋り倒した。
良いお年を!と手を振り合って別れ、家路についた途端、何かが崩れ落ちる様に脱力感と寒気に襲われた。あ、これは来るな。頭は異様に冷静で、来る不穏に戦闘態勢を取った。
吹き出し始める冷や汗。そのまま私は、布団とトイレを往復する悪夢の様な一晩を過ごした。そう、急性胃腸炎である。
このご時世、ちょっとした体調不良ですらはばかられるが、直前に会っていた友人も家族もまったく症状はなく、私自身の疲れから来る胃腸炎だった。
仕事を納めたら、ワインを開けて美味しいチーズとそれに合うおつまみも作ろう、大晦日は紅白歌合戦を観ながら年越しそばを茹でて(天ぷら大盛り)、お正月三が日はテレビの特番もチェックしつつ、観ようと思っていた映画とおやつで過ごして……。
そんなめくるめく食欲は、儚く消え去った。ダウンしている間は全く食欲が無くなり、水分ですら受け付けない。
一晩明けた大晦日の朝。
微熱はまだ下がらないが、喉が乾いていた。ふらつく体で起き上がり、スポーツ飲料で水分を補給。うん、飲める。
体調が悪い時に唯一体が受け入れるのが、私にとってはりんごである。冷凍庫で凍らせたりんごジュースのパウチを熱冷ましとして使いながら、溶かして少しずつ飲む。しっとり優しい果汁の味に、体が癒えていく。
昼。家族が何やらにんにくを炒め出した。
昨晩はちょっとした食べ物の匂いですら悪夢だったが、今、私の鼻は「良い匂い」と感知している。でも、まだだめだ。どんな料理であれ、食べられるほどには胃が追いついていないだろう。
布団でまどろみながら午後を過ごし、日が暮れてきた頃、体が汗をかき出した。いいぞ、もう少し。無理やり布団を被って汗をかかせる。
夜7時半。ほぼ丸1日のダウンから生還した私は、平熱で、しかもオンタイムで紅白歌合戦を観た。食事は念のため摂らないでおいたが、我ながら、快速特急列車並み回復力である。
内臓を休めるために、一定期間固形物を断ち、水分を摂って過ごす、ファスティングやジュースクレンズなどを巷でよく耳にするが、2020年最後の強制デトックスで、ある意味ファスティングを体験した私は、2021年のはじまりを、生まれ変わった様な清々しい気持ちで迎えた。
元旦は、お正月らしくお雑煮を作った。
お雑煮のお汁はかつお出汁で。澄んだお汁に焼き餅、柔らかく茹でたにんじんとほうれん草を乗せ、柚子の皮を散らす。
頂きます、と両手を丁寧に合わせ新年最初の一口。胃袋が空っぽだからか嗅覚が研ぎ澄まされていて、かつお出汁を啜ると五臓六腑に染み渡っていくようだ。
出汁を吸って柔らかくなったお餅を噛みしめ、香りや食感を味わえる健康という幸せを噛み締める。なんと穏やかな元旦だろうか。
体にエンジンがかかってきたので、きなこ餅も作ることにした。お正月に限らず、切り餅は常備している。お米を切らした時、ちょっと小腹が空いた時、消化に良いのでとても便利な上、あんこを添えておやつにしたりと、バリエーションを変えて楽しめる。
きなこ餅の場合は切り餅を焼かずに茹でる。こうすることで水分を含んでお餅がしっとりと柔らかくなり、きなこが絡みやすい。きなこにはグラニュー糖と塩を1:1で混ぜる。しょりしょりとした食感と甘じょっぱさがきなこに加わり絶妙だ。
お皿によそったお餅にきなこをまとわせたら、水と黒糖をレンジでチンした即席黒蜜をとろりと。お箸でつまんだお餅は、きなこをあたりに飛び散らかしながらびよーんと勢いよく伸びた。口の周りを粉だらけにしながら頬張る。あちち、やわやわ、モチモチ、しっとり、口の中を飛び回る色んな擬音を、こっくりとした黒蜜が束ねる。
きなこ餅はしっかり飲み込むまで気を抜けない。これぞ喉越し、といった存在感をお腹に収めてから一息つく。私の胃袋のお休みは年末のみ。元日から元気に「食欲」の暖簾をぶら下げて、来たる食材を出迎えた。
一年の計は元旦にあり。美味しいおやつから始まった2021年は、幸先が良い。
・・・