くらしとおやつ 苺ジャム
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
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苺が美味しい季節だ。
クリスマス商戦の12月には、容姿端麗な苺がショートケーキをはじめ様々なケーキの王座に鎮座するが、この時期スーパーに並ぶ苺は普段使いにはかなりリッチなお値段。もちろんお値段以上のお味であることは間違いないのだが、個人的には「まだ待て」。
年が明ければ、苺の種類も充実してくる。
艶やかに主役感を漂わせるそれを横目でちらりと眺めるが、もう少し、もう少し、と気持ちをなだめる。
さて、3月。スーパーの青果コーナーでにやり。
期は熟したり。500円台だった苺に、300円台がお目見えする。
旬であるがゆえに買いやすい値段になっている部分もあるが、300円台の苺は大抵小粒だ。可愛らしいサイズがパックにぎゅうぎゅうと詰まっていて、私はそれを颯爽とレジへと持って行く。
苺農家さん、選りすぐりの苺ではないものを選り好みしてすみません。
だけど、私が小粒の苺を選ぶには理由がある。
一つ、たくさん食べているような満足感があるから。
大粒の苺1個で小粒の苺2〜3個換算かと思うが、一口でがぶりよりも、小粒をぽいぽいと口に運びたい。形も、粒ぞろいより不揃いの方が見ていて楽しい。
二つ、おやつ作りにちょうど良いサイズ感だから。
ちょうど昨年の3月にも 「くらしとおやつ『にこにこベリー』でいちご大福」 で書いたが、大粒だと、餡と共にお餅からはみ出してしまう。小粒の方が包みやすく、見栄えも良い大福ができるのだ。
ケーキのデコレーションも、大粒の美人さんより、小粒で愛嬌がある子をいくつか並べた方が洋服でいうところの「こなれ感」が出るし、ヘタをいくつか残せば緑色が良いアクセントになる。時には包丁でさらに細かく切って散らしてみれば、それはそれでリズミカルで楽しい。
そんな訳で、小粒の苺を見つけては買い、家でのおやつを楽しんでいる。
ホットケーキを焼き、生クリームとともにたっぷり散らしてなんちゃってショートケーキに。冷凍パイシートを焼いて、カスタードクリームと共に挟んでミルフィーユに。ヨーグルトに入れてつぶしながら食べれば、ピンクと白のマーブル色が目にも鮮やかだ。
まさに、小粒の苺たちはバイプレイヤーなのである。
そして三つ、小粒の苺はジャム作りに最適だから。
苺1パックをさっと水で洗い、ヘタを取ったらそのまま全て鍋へ。煮詰めた感じにしたければ水は少なめに、ソース寄りにしたければ水は多めに。家で作るジャムに正解はないと思うので、好みの水量を加えて弱火にかけるだけだ。
好きな香りは沢山あるが、苺を煮る香りはその中でもトップクラスである。
お菓子に使われている苺フレーバーの香りではない、素のままの、飾り気のない甘い香り。小さな女の子のあどけない可愛らしさを思い起こすようで、部屋中が幸せな香りで満たされていく。
よく熟れた旬の苺はそのままで十分甘いので、砂糖は入れなくても美味しくできるが、塩1つまみ、レモン汁は入れた方が味が締まる。レモン汁が無い時は、お酢で代用する荒技を使うこともあるが、これは入れすぎ注意、ほんの数滴にとどめないと酸っぱくなりすぎる。
苺は形を留めたままくらいの方が好きなので、とろみが出てきた時点で火を止めて完成。苺を鍋に入れて火にかけるだけで、自然の恵みと化学反応が、ジャムというご馳走に仕立ててくれる。何と贅沢なことだろうか。
翌朝、台所にジャムがある喜びから目が覚める。
身支度する前から台所に立って鍋を覗く自分自身に呆れながらも、粗熱が取れたジャムをスプーンで一口。しっかりとした甘さだが、後味はさっぱり爽やか。絶好のおめざだ。
ヨーグルトに入れて軽い朝ごはんにしよう。かりっと焼いた食パンにバターと共に塗るのもいい。冷凍していたスコーンを解凍して、たっぷりつけてかぶりつこうか。
顔を洗って歯を磨きながら、既におやつのことを考えている。
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