03 暮らし

くらしとおやつ コーヒーとコーヒーゼリー

- 2020.06.26
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くらしとおやつ コーヒーとコーヒーゼリー

おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。

・・・

突然だが、スウェーデンは夏が短い。
一年のうち、一番日照時間が長くなるのは6月から8月にかけて。寒い冬を乗り越えるためにも皆こぞって外に繰り出し、日光浴をしたり、キャンプをしたりと、アウトドアを思いっきり楽しむ。

と、本に書いてあるのを読んで、2年前の9月にストックホルムに訪れた。
夏は過ぎて季節は秋、気温は日本の11月くらいでコートが必要だったが、日中は日差しが暖かかった。

ストックホルムは、映画『魔女の宅急便』で描かれる海辺の街そのもので、趣ある建物が立ち並び、石畳の通りでは、モデルのようなスタイルの人々が歩いていた。
百聞は一見にしかずで、コーヒーとおやつの時間・Fika(フィーカ)の文化があるのは本当だった。
通りを歩けば2、3軒先はカフェという程そこかしこにカフェがあり、数日間の滞在で何軒もはしごした。お店の軒先には必ずといっていいほど椅子とテーブルが置いてあり、午後の早い時間から沢山の人がFikaをしていた。

まだ事態が収束しているわけではないが、それでも少しずつ人出が戻ってきた仙台の街中も、テラス席が格段に増えた。
風通しが良く、席と席の間もゆったりとしていて、心なしか皆のびのびとした表情をしている。良い効果をもたらしているのは、ソーシャルディスタンスを守るという点だけではないようだ。

ストックホルムの町の一角で入った一軒のコーヒー屋は、地元で何店舗も展開しているお店で、町の住人やビジネスマンが多く出入りしている印象だった。
店内には天井と同じ高さの大きな棚があり、そこに産地や焙煎度合いの異なるさまざまな豆が並んでいた。
お土産に豆をいくつか買った後、今日のドリップコーヒーをテイクアウトすることにした。

オーダーの後ドリップをするのかと思いきや、目の前の保温ジャーから小さな紙コップに注がれたコーヒー。
外のテラス席で飲んだそのコーヒーの味は、香りがすっかり飛んでいて、美味しいとは言い難い。一体いつ淹れたものなのだろうか?

あたりを見渡してみると、同じく紙コップをもって談笑したり、話し込んだりしている町の人々。
コーヒーの味は二の次で、コーヒーのある時間そのものを買っている。
あぁ、いつから自分はこんなにコーヒーに知ったかぶりするようになったのだ、思い上がった自分を、日本から遠く離れた異国の街で自戒したのだった。
(誤解のないようにいうが、買ってきた豆は美味しかった。)

さて、私のコーヒーの原体験はというと、子どもの頃、休みの日に父が淹れていたコーヒーだ。
電動ミルの振動音と共に、部屋中に香ばしい香りが漂いはじめる。
カップに注がれる真っ黒でとろりと光る液体。おいしそうだと思ったことはなかったが、週末にだけ父が淹れるコーヒーは、家全体のスイッチがオフになるような、ゆるやかな香りの思い出だ。

コーヒーを初めて美味しい、と思ったのは社会人になってから。
仕事をした後のビールがうまいと思う感覚に近いのかもしれないが、仕事を終えた週末、ブラックコーヒーとドーナッツ、好きな映画の組み合わせが私の定番となった。がつんと血糖値が上がる甘いおやつと苦いコーヒーの時間は、疲れた頭と張り詰めた神経をほぐしてくれ、こよなく幸せを感じる。

「サードウェーブコーヒー」という言葉が日本でも浸透し、仙台でもオリジナリティのあるコーヒーを出すお店が増えたここ数年、色々なものを飲んでみる中で、コーヒーは苦いだけではないということが何となくわかってきた。
が、何となくわかってきた、という時が一番思い上がりやすい。コーヒーの味については、きちんとプロの方に教えてもらってから出直してこようと思う。

そうそう、この連載はおやつの連載だ。
コーヒーが甘いものに合うのは言わずもがなだが、では、コーヒーゼリーというのは一体どういう立ち位置のおやつなのだろうか。

つるりと黒光りするゼリーそれ自体は、「おいしそう」とはなかなか思えない風貌だ。味も、こどもが喜ぶようなものだとは思えない。
おとなのおやつ、といえばそれまでなのだが、どうも釈然としない。

というわけで、週末、コーヒーゼリーを作ってみた。
こだわって焙煎されたお店のコーヒーはそのまま淹れていただくとして、インスタントコーヒーを作り、水を沸騰させ、その中にコーヒーとゼラチンを溶かして混ぜる。あとは容器に移して粗熱を取り、一晩冷蔵庫で寝かせるだけ。簡単なおやつだ。

翌日、固まったゼリーをすくって、グラスによそった。
これだけでは苦いので、生クリームをゆるくホイップして交互に入れる。
最後に、今が旬のさくらんぼをひとつ乗せた。

やばい。年甲斐もなくテンションが上がってしまったのだ。

口に含むとぷるんとした食感に、クリーミーな甘みと苦味が混ざり合う。さくらんぼは最初に食べるか最後に食べるか、そんなささやかな迷いも嬉しい。

コーヒーゼリーは、大人が童心に帰るおやつだった。

ストックホルムのFikaは、とてもいい文化だ。
おやつがコーヒーをひきたて、コーヒーがおやつをひきたてる。そして、Fikaが会話をひきたてる。
もちろん、美味しいコーヒーであることは嬉しい。だが、それが最優先ではないのかな、と町の人たちの表情を見て思った。

コーヒーゼリーも然り、美味しい豆から作られたコーヒーゼリーであることよりも、器に盛り付けられたゼリーのある時間、そこに惹かれるのかもしれない。

はて、コーヒーゼリーに合う飲み物は何だろうか。
コーヒーは奥深い。

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