02 食べる

くらしとおやつ 「CAFE MUGI」のあんみつ

- 2020.09.16
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くらしとおやつ 「CAFE MUGI」のあんみつ

おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。

・・・

スイッチを入れると、かたかたと音を立てて、扇風機の水色の羽が回り出した。
途端に涼しい風が顔をなではじめて、ふぅと大きく息を吐いた。
汗が引くまでは、ダメ押しでうちわでも足元を仰ぐ。うちわは、街頭で配られていた何かのキャンペーンのうちわだ。遠くではミーーンミーーンとしつこい程にせみが鳴いている。

夏の間、実家での涼の取り方はこんな風だった。冷房ではなく、あくまで扇風機とうちわ。夏の空気にとっぷりと体が浸っているからこそ、秋への移り変わりが手に取るように感じられる。

最近は、流石に30度を超えると仕事にならないので冷房をつけている。9月に入ったが、今年の残暑はなかなか厳しい。それでもできるだけ窓を開け放ち、夏の熱気も感じていたい。

涼をとるといえば、かき氷だ。
実家には、くまの顔をかたどった蓋のついた家庭用のかき氷機があり、子どもの頃、暑い日はこれでかき氷を作って食べたのが思い出だ。
冷凍庫の製氷機で作った氷をざくざくと機械に入れ、レバーを回しながらがりがりと大きな音を立てて氷を削る。機械の下に置いたガラスの器に少しずつ削られた氷が積もるが、室温が高いので、急がないと削った側から溶けていく。
かき氷の山ができたら、あずきと茹でた白玉、練乳をかけて出来上がり。ざくざくしゃりりと音を立てて食べ進めると、口の中から順番に体温がきゅーっと下がっていく。
私にとってのかき氷は、ふわふわ溶ける高級かき氷ではなく、ざくざくしゃりりと豪快に削ったおうちのおやつだ。

かき氷の思い出を語ったところではあるが、私が夏のおやつでよく食べるのは、あんみつである。好きなトッピングには共通するものがあるが、氷ではなく寒天なので、気温に関係なく急がず食べられるのが嬉しい。

青葉通にある「1TO2ビル」の1~2階「CAFE MUGI」のSNSで、嬉しいお知らせが流れた。
「あんみつ、スタートしました」

マフィンやケーキなどの洋菓子が定番のお店だが、季節を感じるおやつが出るということで、わーい!あんみつだ、あんみつ!子どもが一目散におやつに走るような気分で、自転車を走らせた。

「CAFE MUGI」では、店内奥の窓辺の席に座るのが好きだ。青葉通りのけやき並木が見渡せて、季節を直に感じられる。室内は冷房で涼しいが、窓も開いていた。時折入ってくる夏の風で室温が中和され、本当に気持ちが良い。椅子に腰をかけると、ちりん、と天井にぶら下がった風鈴が鳴った。

ぼんやりと並木を眺めていると、お待ちかねのあんみつが運ばれてきた。
A4サイズほどの木のお盆に、おおよそ直径8cmの濃紺のガラスの器と小さなピッチャー、豆皿が乗っている。ガラスの器には、形良く絞り出されたソフトクリームの周りに、八朔、ラズベリー、白玉、粒餡が行儀よく並んでいて、豆皿にはゴマがたっぷりまぶされたパイが2個乗っていた。

まずは溶ける前に、ソフトクリームを。入道雲のようなうねりを木のスプーンで崩して運べば、木のスプーンの口当たりの良いこと。ミルクの風味となめらかな舌触りを損ねない。
ソフトクリームをそっと避けると、下にはぎっしりと寒天が敷き詰められていた。透明と抹茶色の2種、手のかけ様が伝わってくる。
寒天は好みが分かれるところだが、私は断然固めが好きだ。水の割合が多いと寒天は緩くなる。この寒天はスプーンでは崩れないが、口の中ではほろりとほぐれる抜群の塩梅に唸る。

さてここで、ガラスの器の横に添えられた小さなピッチャーの中身を掛けようか。
ソフトクリームの上で傾けたピッチャーから、ゆったりと深緑の液体が流れ出し、あっという間にアイスがマーブル色に変化した。口に運ぶとほろ苦い。抹茶だろうか。

あんみつに熱中していると、突然、後ろから声をかけられた。
スプーンを持ったまま振り返ると、「1TO2BLDG」のスタッフであり、私の友人でもある女の子が手を振っていた。
あんみつを食べにきたんだよ〜と笑うと、「あ、それは桑茶のソースですよ」とすかさず教えてくれた。

抹茶だと思っていた深緑色は、丸森町で作っている桑茶だという。とろりとした滑らかさの中にも茶葉の粒々を感じ、手作りであることに気づかされる。

「お菓子担当の実乃里さんが、何度も試作して完成したあんみつなんですよ。添えられているパイも、あんみつのために焼いたものでこのセットでしか食べられません。私も毎回試食が楽しみで……。」

誇らしげな彼女を横目に、パイをいただく。さくさくっと香ばしく、甘くなった口の中に塩気が嬉しい。あんみつの脇役の定番・塩昆布ならぬゴマパイとは、「CAFE MUGI」らしいオリジナリティだ。

ソフトクリームと桑茶のソースがとろりと絡んだ白玉の弾力を噛み締め、ラズベリーと八朔で爽やかなフィナーレ。夕方5時、最高の夕涼みになったのであった。

1階に降りると、厨房では、スタッフの皆さんがてきぱきとお菓子の仕込みをしていた。焼き菓子を焼く、甘く香ばしい香りが立ち込めている。
厨房から出てきてくださった実乃里さんに、あんみつ美味しかったですと伝えると、実乃里さんは、マスクで顔の半分が隠れていても、目をきゅっと細くして笑って喜んでくれた。
他のスタッフの方も、「私も大好きで、よく食べています」と太鼓判のあんみつ。お店のスタッフがそれぞれを褒め合える和やかな空気が、また心地良い。

美味しいおやつに出会えると嬉しい。
そして、おやつはやっぱり、作った人の顔が見える物であってほしい。
そんなことをぼんやりと思う帰り道、高くなった水色の空にうっすらとうろこ雲が浮かんでいた。

・・・

CAFE MUGI

仙台市青葉区片平1丁目3-35

営業時間 11:00〜17:00
定休日 水・木

公式Webサイト

Instagram @1to2bldg

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