黒松「喫茶と食事 みどり」店主 鈴木茜さん
美しい盛り付け、顔がほころぶ味、粋な接客。
また食べたい料理、また来たいと思うお店には必ず理由がある。
KURASHITOコラム「くらしとおやつ」を担当する奥口文結が、仙台の食のプロにお会いして伺う美味しいストーリー。
今回は、黒松の「喫茶と食事 みどり」店主・鈴木茜さんを訪ねた。
地下鉄南北線黒松駅から徒歩5〜6分。閑静な住宅街にある「喫茶と食事 みどり」は、季節の食材をふんだんに使ったカレーや定食、スイーツが味わえるお店。
大きな窓からの日差しがたっぷりと差し込む店内は明るく爽やかで、お庭からは四季折々の自然の風景を楽しむことが出来る。
メニューは、月曜日から木曜日までの軽食ランチ、金曜日と土曜日の和定食ランチがあるほか、スイーツメニューも充実している。
平日の軽食ランチメニューのスパイスキーマカレーを堪能したところで、店主の鈴木茜さんにお話を伺った。
スパイスカレー誕生秘話
- 今日のランチのスパイスキーマカレー、スパイシーで香りが良いですね。辛すぎず食べやすく、カレー専門店のパンチのあるカレーとはまた違った優しい美味しさがありました。
固形ルーは使わずに、スパイスから直接香りを出して作っているカレーで、挽肉、ししとう、クミン、そしてカルダモンがたっぷり入っています。カルダモンは爽やかな香りで大好きなんです。
カルダモンは体温調整をしてくれる万能なスパイスで、夏は体を冷やしてくれて、冬は体を温めてくれる。体内に入った時に効果が変化するすごいスパイスなんです。冷暖房ではなくて、食べ物で体温調節できるって良いことだなと思って。
- 私、去年からデスクワークが増えたので足の冷えが酷くて。お茶に生姜を入れたりして飲むんですが、スパイスも良いですね。
香りから元気になりますよね。
- 先程、カレーを作るところを見せていただきましたが、ルーとは別に同時進行でオイルを作るんですね。
フレッシュハーブで香りを出したオイルを仕上げにカレーにかけると、さらに香りがよくなるんですよ。
- それでこの良い香りなんですね!お店中にスパイスの良い香りが広がっていて、それだけで食欲がそそられました。
- 「喫茶と食事 みどり」の定番メニューというと、ルーが緑色をしたほうれん草のカレーのイメージがありましたが、スパイスカレーをメニューに入れるきっかけがおありだったのでしょうか。
ほうれん草が美味しい冬の時期に出していたカレーですね。
もともとカレーは大好きなのですが、一昨年、大阪でスパイスカレーを食べる機会があって衝撃を受けて。体に良いし、野菜もたっぷり入っているし、おじいちゃんおばあちゃんまで並んで食べているっていうのがびっくりで。
これを仙台でも出したいなと思い、より深くスパイスについて勉強して作ったのが、今のスパイスキーマカレーです。
− また今後も変化していく可能性がありそうですね。
献立へのこだわり
- 平日のカレーに続き、週末は定食メニューですね。品数が多く、隔週で変わるので、献立を考えるのが大変なのでは?
季節毎にこの時期はこれっていうサイクルが自分の中にあるので、それに合わせて時々新しいメニューを入れつつ、自分で食べたいものを選んでいるという感じです。
- 毎回メニューは試作されるんですか?
以前は試作していましたが、最近はレシピが固定化されてきていて、試作というよりは定番メニューに季節のアレンジを加えるようになってきました。例えば、今日は寒いから生姜を入れてみようとか、大根おろしをいれてみようとか、そういう季節のスパイスを加えながら作っています。新しいメニューを提供するときはもちろんしっかり試作をしてお客様に出すようにしています。
− お客様それぞれの体調に合わせて食べられるのがいいですね。
基本的には、自分で食べたいもので体に良いものを出したいので、季節の野菜を使うようにしています。農家さんと直接やりとりすることもありますし、いつもお願いしている八百屋さんに良い野菜を見つけてきてもらうこともあります。あとは、彩りがきれいなものを食べると幸せな気分になるので、彩りは意識しています。
ー 2017年にお店がオープンした当初、汁物は、お味噌汁ではなくお澄ましが多かった印象がありました。これには理由があったのでしょうか?
うちの献立では野菜をたっぷり採ってほしいという想いがあります。もちろん、お味噌汁の時もあるのですが、お味噌汁はそれぞれのお家で食べていそうだから、汁物は他のメニューとのバランスで考えます。
例えば、煮物で野菜を沢山使う時は、汁物はキャベツとか葉物にしよう、という様に、色々な食材を採れるようにしています。
- 自宅だと、野菜不足の時は具沢山のお味噌汁さえとっておけばいいや!みたいになってしまうので、みどりのメニューを見ていると、色々な野菜のバリエーションが楽しめるんだと思えますね。
お客様にも献立の参考になりますと言っていただけます。
3世代であんみつ
- 「喫茶と食事 みどり」の店名の由来は?
よくみどりさんですか?って聞かれるんですが(笑)、そうではなくて、一つは、色々な世代の方にお店の名前を覚えてもらいたかったこと、もう一つは、お庭の景色から。木々の緑がとてもきれいだったので、みどりという名前にしました。
オープンしたばかりの頃は、「みどりって聞いてどんなお店なのかと思った」ってよく言われたんですが、今はそういったことも言われなくなったので、段々とお店を認知していただけたのかな、と思っています。
- 2017年の4月にオープンしてから約3年半。どんなお客様がいらっしゃっていますか?
大学生くらいの方から90歳近いかなっていう方まで、色々な世代の方に来ていただいている印象です。3世代で来ていただくお客さんもいらしゃって、おばあちゃまがお孫さんとあんみつを食べにきてくださったりとか、嬉しいですね。
− スイーツは、あんみつやパフェなど懐かしい印象のものがあって、3世代で来た時にも安心感がありますね。
それは狙っていました(笑)。どのデザートも削れなくなってしまって、今は固定化してきているかな。常連の方がメニューを見ないで食べたいものを頼んでいただくというのがあるので、「これを無くしてしまったらあの方が悲しむかな」と思うと、削れなくなってしまって。
あんみつが一番人気ですが、常連の方の中には、きな粉ロールケーキがお好きな方もいらっしゃいます。
- バリエーションがあるのは、迷う楽しみがあっていいですね。
お店の名前を「喫茶と食事」にしたので、喫茶も楽しんでもらえるようにしたいなと思って、スイーツのバリエーションを可能な限り出していきたいです。
・・・
お料理やお店について伺ったところで、ここからは、鈴木さんご自身のお話。
管理栄養士の資格を持ち、料理スタイリストとして、テレビや雑誌でのレシピ提案など多方面で活躍されている鈴木さん。そんな彼女が料理に興味を持ったきっかけは、小学生まで遡る。
ひとりで台所に立った、子ども時代
「母が働いていたので祖母が料理をしていたのですが、おばあちゃんが作る料理は、ザ・和食って感じだったので、自分が食べたいものは作ってみよう!ということで、こども用の料理の本と食材を買って来てもらって、『私一人でやります!』って言って作っていました。おばあちゃんは横で見ていて、危ない時は注意してくれる感じでした。」
友人にお菓子を作って渡したり、当時取り組んでいた吹奏楽の土曜日練習の時に持って行くお弁当を作ったりと、小さい頃から料理エピソードには事欠かない。
「初めて作れるようになったのが卵焼き。お砂糖多めの甘いやつです。卵焼き用の四角いフライパンは無かったので、丸いフライパンで焼いていました(笑)。」
料理好きの女の子が高校生になると、親戚に栄養士の大学に進んだ人が多かった影響もあり、大学に進学して管理栄養士の資格を取った。
卒業後は、料理教室のアシスタントとして働き始めた鈴木さん。そこで、料理の道の恩師・料理研究家の河合伸子氏と出会うことになる。
本物を知らないのに、作るな
「河合先生の料理教室では、1回に20名くらい教えていました。私はそのアシスタントとして、食材の買い出しや、調味料の計量、生徒さんとの連絡業務などをしていました。
河合先生は、厳しいけど優しい方でした。今、自分が独立してやっていると、先生って本当にすごいなと改めて思います。知識も経験も凄いですし、料理に貪欲で、ずっと勉強し続ける姿勢が本当に素晴らしいなと思って見ていました。」
料理の道50年以上のキャリアがおありでも、常に新しい料理を探していたという河合氏。そんな彼女からの教えで、鈴木さんが今も大切にしていることがある。
「『本物を食べたことがないのに、作らないで』と言われたことがありました。『イタリアンのメニューをやるんだったら、イタリアへ行きなさい』と。
つまり、海外に行けなかったら、せめて東京の専門店で食べて、自分なりに解釈して作りなさいということ。本物をちゃんと知るようにと教育していただいたので、食べたことがないものは作らないです(笑)。」
レシピ、産みの苦しみ
○○風ではなく、本物を。鈴木さん自身旅行が好きということもあり、国内外様々なエリアへ足を運んでいる。現地で食べたもののエッセンスが料理のインスピレーションになっているようだが、それでも、新しいレシピを生み出す大変さはあるようだ。
「長くやっていると、全部のメニューを作り終えてしまったかなと思ってしまう時があって。料理は無限大だからもちろん全部であるはずはないのですが、私が作れる料理のレパートリーは作ってしまったという感覚になる時があるんです。
でも、昔作ったレシピを改めて作ってみると、数年前と今と味付けが変わっていて、ちょっと直したりしてまた同じメニューをやることもありますね。」
料理において、鈴木さん自身、そして料理教室の生徒さんにも変化があるという。
「私自身は、好みが薄味に変わってきていると感じます。ヘビーなものも大好きだったんですが、段々と体に良いものを選ぶようになってきていますね。料理の手間もどんどん省くようになってきているかな。素材を生かした料理が多くなっています。
料理教室でも、以前はせっかく作るならと思い、本格フレンチやイタリアンを教えたりしていたんですが、生徒さんが家で作らないんじゃないかと思って。
生徒さんの方も、昔は家ではなかなか食べられないものに人気があったんですが、今はスーパーで買える食材で、出来る限り美味しくてすぐ実践できるような、日々の料理を習いたいという要望が多くなりました。」
家庭料理は、どうしても献立が固定化してきてしまうもの。簡単・手軽・美味い3拍子揃った料理のアイディアをプロから伝授してもらえる料理教室は嬉しい。
「私もね、自分の味に飽きてくるので、たまに他の先生に料理を習いに行くこともありますよ(笑)。」
食に関わるプロでありたい
お歳暮やお中元カタログの料理撮影にはじまり、最近ではYouTubeでの料理番組配信まで、鈴木さんの活動は多岐に渡る。
仕事をする上でのポリシーはあるのだろうか。
「食に関わるプロになりたい、と思ってきました。独立当初はわからなかったのですが、最近は、食の仕事の中でも自分に向いていることが何となくわかるようになってきました。
やり続けたいことは料理教室。今はコロナウィルスの影響でお休み中ですが、本町教室と併せて、お店でも年に数回実施していく予定です。」
料理は無限大、という鈴木さん。仕事柄、常に色々なものを食べている中で、常に、新しい料理のイメージを浮かべている。
「ただ漫然と食べるのではなく、『あ、これはこういう風に活かせるな』とか、常に考えています。そして、美味しかったら脳が反応してくる。『これ、私もできるかな?』って。
私に作れて、尚且つ色々な人が喜んでくれる新しい味で、『これだ!』っていうものをまだ見つけられていないと思っています。この調理法新しいな、みたいな驚きを探し続けて行きたいです。」
美味しくて、体に良いものを
今後は、鈴木さんのルーツである料理教室と、「喫茶と食事 みどり」でのメニュー作り、どちらも大事にしていきたいという鈴木さん。
「30代で体調が悪くなった時もあったことから、体に良いものをより意識する様になりました。体に良くて美味しいもの、すぐには効果が出ないかもしれないけれど、食べると元気になれるような薬膳的な料理を勉強していきたい。そして、体に良さそうだなと思えるものをお店でも提供し続けていきたいですね。」
お店に伺った日、暖かな店内から真っ白な雪景色が見られた。春が来ればお庭の木々が芽吹き、お店の名前の由来でもある爽やかなみどりが見られるだろう。
四季折々の景色、旬の野菜をふんだんに使い、鈴木さんが体を気遣い作ったお料理とスイーツの数々。
「喫茶と食事みどり」では、体の五感が整い、潤っていくようだ。
喫茶と食事 みどり
仙台市泉区黒松3丁目10-12公式Webサイト
Instagram @kissa_to_syokuzi_midori営業時間
月曜日〜金曜日/
お食事(11:30~15:00)、喫茶と甘味(11:30~17:30)
土曜日/
お食事(11:30~15:00)、喫茶と甘味(11:30~18:00)
定休日
日曜日祝日・不定休
電話番号022-702-6132