02 食べる

川崎町「farmer’s table mano (ファーマーズテーブル マーノ)」佐藤剛さん

- 2022.02.06
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川崎町「farmer’s table mano (ファーマーズテーブル マーノ)」佐藤剛さん

美しい盛り付け、顔がほころぶ味、粋な接客。また食べたい料理、また来たいと思うお店には必ず理由がある。仙台の食のプロたちの美味しいストーリー、今回は、川崎町にあるレストラン「farmer’s table mano (ファーマーズテーブル マーノ)」の佐藤剛さんを訪ねた。

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仙台市中心部から車で約40分。国営みちのく杜の湖畔公園向かいの直売所「川崎特産センター」内に、雰囲気の異なる一角がある。


無垢材を使った店構えが印象的
無垢材を使った店構えが印象的

2021年4月にオープンした「farmer’s table mano (ファーマーズテーブル マーノ)」は、シェフ自ら育てた「たけし豚」や、地元の食材を使った料理が楽しめるレストランだ。
ドリンクは、川崎町のワイナリー「Fattoria AL FIORE」などのナチュラルワインや、川崎町や仙台市のロースターのコーヒーなどを提供しているほか、川崎町の農家の方々が作った新鮮な野菜や手仕事雑貨、たけし豚のハムやベーコンなどの加工品を購入することもできる。

音が反響するほど、天井が高く開放的な店内
音が反響するほど、天井が高く開放的な店内

まずは、シェフの佐藤剛さんに、お料理についてお話を伺った。

シェフ・佐藤剛さん
シェフ・佐藤剛さん

「たけし豚」を味わう


ー farmer’s table manoは「たけし豚」を使ったお料理をいただくことができるお店です。一言でいうと、どんなお肉なのでしょう?

川崎町の放牧場で、僕、佐藤剛が育てている豚です。餌には、かぼちゃ、さつまいもなどの野菜や煮たお米などを与えていて、甘みのある脂としっかりとした旨味が特徴です。

ー たけし豚のローストをいただきました。弾力が凄く、ぷるんぷるんしていますね。さっきまで生きていたのでは、と思うような生命力を感じました。

召し上がっていただいたのは、肩ロースです。繊維質で筋も多い部位なのですが、旨味が強く、豚肉が好きな方には好まれる部位ですね。

ー 添えられていたれんこんと里芋がさくさくほくほくで、めちゃくちゃ美味しかったです!里芋は皮付きのままでしたね。オーブンで焼いてあるだけでこの食感は出ますか?

オーブンで1時間ぐらい焼いた後、手で割って、揚げてもいます。皮もアクセントになって美味しいですよね。


ー ハムやパテも様々な種類を作っていらっしゃいます。

以前働いていたレストラン時代でも、買ってきた豚一頭を、夜な夜な加工して生ハムやサラミにしていました。今も、一頭ずつ余さず全て使います。一頭使い切ったらまた一頭出荷し、加工する分と料理して提供する分とに分けています。

日替わりのパスタメニュー。この日は自家製たけし豚のベーコンと玉ねぎのトマトソースパスタ。麺はもちもちと歯ごたえがあり、ベーコンの燻した香りが口の中に広がる
日替わりのパスタメニュー。この日は自家製たけし豚のベーコンと玉ねぎのトマトソースパスタ。麺はもちもちと歯ごたえがあり、ベーコンの燻した香りが口の中に広がる

素材に、頼る


ー 個人的な話ですが、昨年4月から小さな畑をはじめました。季節ごとの野菜を自分で育ててみて、スーパーに出回っているのは野菜のほんの一部だけで、作る人にしかわからない部分がたくさんあることを実感しました。今日のご飯に使われているむかご(山芋の葉の付け根にできる小さな芽)もそうだな、と。

これは、地元の農家さんが作ったむかごですね。お店で出している野菜は、お隣の産直や地元の若い農家さんから買ったものです。みんな真面目で良い食材を作ってくれるので、余計なことをしなくても美味しくて本当に助かっています。僕がやっていることなんて、煮るか、焼くか、揚げるかくらいしかない(笑)。

ランチメニューの前菜盛り合わせ。品数の多さに驚く
ランチメニューの前菜盛り合わせ。品数の多さに驚く

ー 前菜は品数が多く、訪れる度に食材が変わっているのが魅力です。

今日は、たけし豚のプロシュート・コット(モモ肉のハム)とオリーブ入りのパテ、人参ラペ、プンタレッラと文旦のサラダ、雪菜のナンプラー風味、ビーツのマリネ、しいたけのグリル、ごぼうの赤ワイン煮、川崎町岩谷さんの卵のオムレツです。

ー どの味付けもシンプルで、例えば、人参なら人参の味、ごぼうならごぼうの味がする。シンプルな味付けがお好きだからですか?

技術がないので素材に頼るしかないんです。それしかできないから(笑)。

ー そんなに謙遜なさらないでください(笑)。

僕、良くも悪くもこだわりがないんです。センスがないと自分では思っていて。料理の経験も25歳までですし、それでいて感覚でしかやってきていないのでレシピをひとつも持っていないんです。ノートも書いていないですし。

ー もし、技術という点で言うならば、例えば、レシピを多く持っている方は、素材がどんなものでも技術で美味しくできるのかと思います。それはもちろん美味しいし素晴らしい。佐藤さんが素材の味に頼っているとすれば、それだけ素材の引き出しが多いのですね。

あぁ。そうかもしれません。ここに来てくれる若い農家の子達も「どういう食材が良いですか?」って聞いてくれるんですが、「君が作る野菜なら何でも良いよ」って(笑)。

例えば、都会で作られる料理には、料理に使う食材のイメージがあって、そのイメージに合わせて食材を集めていくことが多い。僕ら、田舎でやっている人間からすると、食材はもっとシンプルで良いなって思うんです。僕らなりの伝え方、お客様の喜ばせ方があるなと思っているので、無いもので無理をしないし、飾りすぎる必要はない。僕らができる範囲でお客様に満足していただく事が大前提です。

お肉堪能後は、ビーガンデザート?


ー デザートメニューのひとつ、お豆腐とチョコレートのテリーヌは、動物性の食材を使っていないのですね。メインディッシュのお肉から一変しました!

お店のスタッフにアレルギーがある子がいるんです。乳製品・小麦・卵が食べられないので、その子にデザートを作ってもらったら、動物性の食材を使わないデザートが出来上がってきて。僕はあまりそういうものを食べていなかったし、全く興味もなかったんですが、意外と満足度も高くて、「良いじゃん!」って。

普段、生クリームやバターを使ったお菓子を食べている方にとっては物足りないかもしれません。でも、最近アレルギーの方も多いですし、みんなに食べてもらえたら嬉しいなと思って。チョコレートのテリーヌに使っているお豆腐は、秋保で作られたもの。食材も選んで作っています。

カフェタイムの広がり


ー 2022年から、カフェタイムをはじめられました。

うちの店は、この辺では単価が高めで、地元の方にとっては入りづらいのはあると思います。せっかくこの場所でお店をやっているので、もう少し気軽に地元の方にも利用していただけるようにと思い、土・日・月の3日間からカフェタイムをはじめました。川崎町のスペシャルティコーヒー店「KURIYA COFFEE ROASTERS」の栗谷さんからご紹介いただいた石川さんにバリスタとして入っていただいています。


ー 目の前で、サイフォンでコーヒーを淹れていただきました。

サイフォンで淹れるお店は宮城ではなかなか珍しいですね。豆は、川崎町「KURIYA COFFEE ROASTERS」の浅煎りと仙台市「ほーむず珈琲」の深煎り、淹れ方はサイフォン・ハンドドリップから選べます。

サイフォンで淹れたコーヒー。サイフォンは高温で淹れるため、熱々をいただける
サイフォンで淹れたコーヒー。サイフォンは高温で淹れるため、熱々をいただける
目の前でラテアートを披露してくださったバリスタの石川さん。無駄のない手の動きが美しい
目の前でラテアートを披露してくださったバリスタの石川さん。無駄のない手の動きが美しい

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お料理のこだわりを伺ったところで、お店を開くまでの佐藤さんのルーツを伺った。

俺、料理人の実力ないな


「たけし豚」を自ら育てて加工し、料理として提供する佐藤さんは、農家であり、料理人。そんな佐藤さんの料理人の道は、10代後半で料理の専門学校に通うところからはじまる。

専門学校を卒業するとすぐに、仙台の向山にあったイタリアンレストラン「AL Fiore(アルフィオーレ・現在は閉店)」で働き始めた。実直に料理の道を歩んできたようだが、ついて出てきた言葉は意外だった。

「21〜22歳そこそこで、自分は料理人として実力がないなと気づく部分がありました。このままやっても普通の料理人にしかなれないな、だめだなと思ったんです。」

高校生の頃からイタリアの文化に惹かれていたという佐藤さんは、イタリア料理で大切にされている食材・豚肉に目をつけた。

「世の中には銘柄豚が山程あるんですが、銘柄の違いは、餌と育て方のほんの1パーセントにも満たない差で、その他で大きく変わるところってほとんどありません。いつも美味しい豚を探していたので、それなら、自分で育ててみようかなと思いました。」

極寒の養豚場、修行の日々


佐藤さんは、働いていたAL Fioreで1年間の休みをもらい、AL Fioreでも使っていた黒豚を育てている岩手の養豚場へ。季節は12月、本州で最も寒いといわれた岩泉だった。

「連日マイナス20度超えで、雪がものすごく積もっている中、僕は家の中ではなくプレハブ小屋で寝ていたんです。ストーブをつけて寝るとものすごい結露ができるんですが、ストーブのタイマーが消えるとその結露が凍ってプレハブの中に閉じ込められるんです(笑)」

佐藤さんがプレハブ小屋で寝泊まりしていたのは、毎日のお産を見守るためだ。

「養豚の主な仕事は、お産、種付け、健康チェックです。豚は呼吸器系の病気になりやすいので、毎朝全頭見回って、お腹が変な動きになっていたらすぐに薬を打ちます。お産は昼夜問わず見守らないといけないので、ほとんど眠れませんでした。

お産って、生命の誕生ですよね。本当に想うところがあって。全部が全部上手に産まれてくるわけではないんですよ。死産もある。特に黒豚は産道が狭く、赤ん坊が詰まることがあるので、僕らがやるのは、産道に手を入れ、出てこられなかった赤ん坊の歯に指を引っ掛けて引き出すこと。最初は教えてもらいましたが、あとはやってみての感覚でした。

養豚の要は、いかに子どもを産ませるか、そして、いかにはじめの段階を健康的に育てるかなんです。養豚を一貫して経験させてもらえて、すごく良かったと思いますね。」

川崎ではじめた養豚


1年間の岩泉での修行を経て、仙台に戻ってきた佐藤さん。AL Fioreに戻って数年働く中で、お金を貯め、イタリアに渡り、養豚と加工肉をやることを考えていた。

しかし、2011年に東日本大震災。イタリアへの資金は、炊き出しや手伝いに遣い切っていた。「ここ、川崎で養豚をはじめよう」と、新規就農を決めたのが2012年春のことだ。

「養豚をはじめる時、最初にぶち当たる壁が周囲の理解なんです。畜産は鳴き声や匂いなどから、周辺に住んでいる方の許可を得て納得してもらうのが難しい。
実は、僕の祖父が川崎で観光農園をやっていたんです。10ヘクタールくらいの面積を使って良いよと言ってもらえて。周りは酪農家が多く、環境はばっちりで、スムーズに開業することができました。」

豚らしく、生かす


豚は1年間に2度お産をする。毎日出荷する養豚場であれば年間2,000〜3,000頭、大きいところであれば数万頭の出荷があるという。佐藤さんが修行した岩泉の養豚場の親豚は120頭で、その日によって違う豚のお産が回ってくる。
一方、佐藤さんが育てているたけし豚は、10〜20頭。現在、親豚はおらず、譲ってもらった子豚を育てるスタイルだ。

「養豚の世界では、血統・餌・環境のバランスが整っていると良い豚ができるといわれています。僕は、血統に関してそもそも興味がない。どんな血統の豚を育てても、僕のところの味になります。やはり、大事なのは餌と環境だと考えています。」

多くの日本の養豚場の環境は、1平米に1頭が現実だという。

「僕が考えているのは、豚を、豚らしく生かすこと。僕ら人間もそうですが、ある程度自由でいたい部分ってありますよね。育てている豚にも自由に動いてもらいたいなと思い、5万平米に10〜20頭を放牧しています。多くの養豚場の数千倍の広さはあります。」

料理人として、食材として扱ってきた豚肉を、農家として育てる面を担った佐藤さん。迷いつつも、「手をかけた生き物の最期、どのように思うか」と投げかけてみた。

「はじめの頃は全く慣れませんでした。僕が育てて、僕がトラックに積んで出荷場に連れて行くので、今も想うところはあります。

ただ、他の養豚場では、育てた豚が最終的にどうなっているのかわからないと思うんです。僕の場合は、有難いことにお店があって、ここで提供して、お客様の口に入るところまでを見届けることができる。本当に勝手ですが、そういう意味では、僕なりに豚の命に対して全うできている気がしています。」

手をかけ育てた豚を、余すところなくいただき、感謝する。
食べることは、命をいただくことだと、改めて考えずにはいられない。

シンプルに、手をかける


2021年4月、川崎のたけし豚の放牧場からほど近いJAの川崎特産センターの一角に、farmer’s table manoはオープンした。

「このセンターの2階を使いたいと相談したところ、東日本大震災で被害があった当時のまま手付かずになっていました。JAの方からは、片付けるだけで数百万円はかかるので、代わりに1階はどうかとご提案いただいて、ここを借りることにしました。」

お店の奥の大きなテーブルの天板は、林業をされている佐藤さんのお父様の作業場に眠っていた木材。椅子も宮城県産の木材を使ってオーダーメイドで作ってもらったもの。内装は自分たちでも作業し、地元の大工さん、建具屋さん、左官屋さんにお願いしたという。シンプルだが、手触りが感じられる空間だ。


自分たちらしい、食の表現を

店内では、川崎町の職人さんが作った竹ざるや手すき和紙雑貨をディスプレイしながら販売し、地元の手仕事や暮らしの魅力も伝えている
店内では、川崎町の職人さんが作った竹ざるや手すき和紙雑貨をディスプレイしながら販売し、地元の手仕事や暮らしの魅力も伝えている

farmer’s table manoは、2022年4月でオープンして丸一年を迎える。訪れるたび、心地よい空気が流れ、お客様それぞれがゆったりと過ごしている空間だ。

「仙台・県外からのお客様が多く、リピートして来てくださっている方が増えていて本当に有難いです。街中だと、ここまでテーブルや椅子の感覚を空けることができないと思うので、広いスペースを贅沢に使わせていただいています。」

料理人から農家にもなった佐藤さんに、これからここでやってみたいことを尋ねてみた。

「僕は、欲しい食材を作るため、料理をするために農家をやっています。農家として、野菜やお米などの農作物をもっと充実させたいと思いますし、川崎には、若い農家さんや川魚の養殖をしている方もいらっしゃるので、彼らの応援もしていきたい。
野菜やお肉ってこういうもんなんだよっていうのを知っていただけたらと思っているので、自分たちのやれることをもっと表現していきたい。そのためには、僕らなりのペースで、地域の良さをゆっくり伝えていけたらと思います。」

店名のmanoは、イタリア語で「手」を意味する。色々考えて、シンプルに覚えやすいものにしたというが、佐藤さんはこうも言う。

「このお店は、内装も家具も、みんなの〝手作業〟で出来上がったお店。僕らのやるべきことは、手で生み出すものを大切にしていくこと。これからも良い形でつながっていけばいいなと思っています。」

野菜や豚を、自らの手で育てる。自らの手で温度や質感を感じ、調理する。
そうして、地域の人と手を取り合って作っているfarmer’s table manoのゆるやかなひろがりが楽しみだ。


左から、バリスタスタッフの石川さん、佐藤剛さん、店内の花や雑貨などを担当する麻衣子さん
左から、バリスタスタッフの石川さん、佐藤剛さん、店内の花や雑貨などを担当する麻衣子さん

撮影:蝦名信治

farmer’s table mano
柴田郡川崎町小野弁天5-1川崎特産センター1階

営業時間:
ランチ 11:00〜15:00 (LO 13:30)
カフェ(土・日・月・祝のみ) 14:00〜18:00(LO 17:30)
ディナー(ご予約制) 18:00〜
定休日:水・木、不定休

公式Webサイト

Facebook

Instagram @farmers_table_mano

カフェタイムのInstagram @mano_cafet

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