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塩竈「a good table ’ Chariot(チャリオット)」早﨑陽子さん

- 2021.10.24
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塩竈「a good table ’ Chariot(チャリオット)」早﨑陽子さん

美しい盛り付け、顔がほころぶ味、粋な接客。また食べたい料理、また来たいと思うお店には必ず理由がある。
仙台の食のプロたちの美味しいストーリー、今回は、塩竈にあるレストラン「a good table ’ Chariot(チャリオット)」の早﨑陽子さんを訪ねた。

JR東塩釜駅から車で約5分。塩釜水産物卸売市場を過ぎたところに白い外観の一軒家がある。ここ「a good table’ Chariot(チャリオット)」のすぐ目の前には海が広がり、大きな窓から入る明るい日差しと海風を感じる開放的な空間だ。

chariotの外観。海辺の雰囲気にぴったりの白い一軒家
chariotの外観。海辺の雰囲気にぴったりの白い一軒家
店内2階からは、塩竈湾が一望できる
店内2階からは、塩竈湾が一望できる

この空間でいただけるのは、動物性食品を使わないヴィーガン料理とスイーツ。まずは、オーナーの早﨑陽子さんに、ランチコースのお料理についてお話を伺った。

オーナーの早﨑陽子さん
オーナーの早﨑陽子さん

ヴィーガン料理とは?


ー chariotのお料理は、毎月メニューが変わるので、来る度に「今回はどんなメニューなんだろう?」と期待が膨らみます。まずは、ヴィーガン料理について教えていただけますか?

ヴィーガン料理とは、動物性の食品を使わずに作る料理のことです。お肉、魚、卵、乳製品に加え、白砂糖とはちみつも使いません。

ー 白砂糖とはちみつも使わないのですね。

白砂糖などは精製してしまっているので、酵素が取れません。お店では、ヴィーガンに加え、酵素がたくさん摂れるローフードも取り入れています。ローは生のまま・非加熱の意味。生のまま、または、加熱したとしても48度以下の温度で調理します。
生の食材には酵素がたっぷり含まれているので、デトックス効果が期待できるほか、48度以上の熱では死んでしまうビタミンCやミネラルなどの栄養素もそのまま体に取り入れることができるんです。

ー ローフードは食材本来の栄養素を摂ることができるんですね。ヴィーガン料理のメリットは何ですか?

動物性の食品は消化に時間がかかります。野菜や果物など、植物性の食材を使うことで内臓を休ませ、体と心のデトックスができます。chariotでは、ストイックになりすぎないように馴染みやすい方法でご提供しています。

9月のコースメニュー「無花果のフルーツスパイシーと新鮮ハーブ」。森のように盛り付けられたハーブときゅうり、無花果に、酸味のあるラズベリーのソースが添えられている
9月のコースメニュー「無花果のフルーツスパイシーと新鮮ハーブ」。森のように盛り付けられたハーブときゅうり、無花果に、酸味のあるラズベリーのソースが添えられている

ー 9月のコースメニューをいただきました。どれも色合いと盛り付けの美しさに目を見張ります。お料理はどのように考えているのですか?

私と料理長である弟の2人で毎月のメニューを考えています。私はスイーツとスープ、盛り付け担当です。姉弟だからお互いの意向を言いやすいところはありますが、言い過ぎないように気をつけています(笑)。弟は研究熱心で、たくさん刺激を受けていますね。

料理のアイディアは、海外のお料理の本や映画で観たワンシーンなど、良いなと思ったものは頭の隅に入れておいて、「ここの部分、あれに使えそうだな」とアイディアの断片を組み合わせていくイメージですね。料理の題名も、第一印象で決めているのでハチャメチャなんです(笑)。

ー 自由な発想で作られているのが伝わってきますね。

9月のコースメニュー「『緑』が奏でるクリーミースープ」
9月のコースメニュー「『緑』が奏でるクリーミースープ」

ー きれいな黄緑色のスープは濃厚でなめらかで、口に含む度、野菜の旨味がじゅわっと口に広がりました。コクを出すために使われる、牛乳やバターなどは使っていないのですよね?

そうですね。 これは豆乳ベースのスープで、野菜で出汁を取っています。先ほど、植物性の食材は消化が早いと言いましたが、特にナッツ類は消化が早いので、お店ではアーモンドミルクもよく使っています。

ー スープの上に乗ったブロッコリーが香ばしく、とても良いアクセントになっていました。これはローストしているのですか?

バーナーで軽く炙っていますね。茹でていない生のブロッコリーなので、ローに近い歯ごたえが感じられると思います。

新しい味を求めて

9月のコースメニュー「さつまいものモンブラン仕立て@グリル野菜チップ添え」。アーティスティックな盛り付けに、味の想像力がかきたてられる
9月のコースメニュー「さつまいものモンブラン仕立て@グリル野菜チップ添え」。アーティスティックな盛り付けに、味の想像力がかきたてられる

ー 9月のお料理で一番印象的だったのが、大きなさつまいもチップスが存在感抜群の「さつまいものモンブラン仕立て」。かぼちゃとさつまいもの甘みに、すだちの酸味と抹茶の苦味の組み合わせが鮮烈でした。

さつまいもとかぼちゃの甘みだけだと単調なので、その対極にある苦味を合わせたら合うのでは、と思ったんです。そこに少し刺激のある酸味があれば、甘みと苦味がまろやかに中和される。さらに、さつまいものモンブランにはアールグレイの風味もつけています。

この味とこの味が合うという黄金バランスはあると思いますし、もちろん、食べてみて合わないなというものはお出しませんが、スパイスの世界にルールはない気がしています。嗅覚って最も心と繋がっていて、特にスパイスは香りがダイレクトにくるので、直感で決めているところが大きいです。

ー こういう組み合わせもありなんだな、と思うと共に、いかに味の固定概念にとらわれているか気付かされます。chariotのお料理は、そういうものを打ち破ってくれますよね。

常に新しい組み合わせを試したいですし、「常識を打ち破れ!」と思っているところはあるかもしれません(笑)。

大らかで自由なヴィーガンスイーツ

9月のコースメニュー「グラサージュケーキと添えた無花果のコンポートと」。しっとりとしたグルテンフリーのカカオスポンジケーキに、シナモン風味の無花果のコンポートがアクセントになっている
9月のコースメニュー「グラサージュケーキと添えた無花果のコンポートと」。しっとりとしたグルテンフリーのカカオスポンジケーキに、シナモン風味の無花果のコンポートがアクセントになっている

ー chariotをはじめ、秋保のテイクアウト専門店「ORGAN(オルガン)」でもさまざまなビーガンスイーツを提供されています。仙台でもヴィーガンのお菓子を提供するお店が増えましたが、先駆けですね。

そうですね。ヴィーガンスイーツは多種多様で、お店によって個性が異なるのが魅力ですよね。

実は私、元々料理が好きではありませんでした。例えば、卵を使う料理。オムライスは、生クリームを入れてふわふわにするための火加減が難しいし、カルボナーラも、ソースに入れる卵がダマになってしまうのでうまく作れなかったんですね。
対してビーガン料理は動物性のものを使わないので、火を入れすぎても焦げたりダマになったりしない。
卵やバターを使うお菓子は、しっかり分量を計って作らなければ上手く仕上がらないですが、ヴィーガンスイーツは多少分量を間違えても何とかなるし(笑)、ロースイーツならば、オーブンを使って焼かないので短時間で作れる。

何より、材料の想像力を膨らませられるのが良いですね。「卵は何で代用できるかな」とか、「粘り気は山芋で出せるな」とか。通常の料理は選択肢がAだけなのに、ヴィーガン料理の選択肢は、BもCもある。そういう大らかさが私に合っていますね。


・・・

お料理のこだわりを伺ったところで、chariotを開くまでの早﨑さんのルーツを伺った。

違和感ばかりの学生時代


色彩感覚豊かで、アーティスティックなお料理を作られる早﨑さん。
のびのびとした感性をお持ちだが、学生時代は違和感ばかりの日々を過ごしていたという。

「小学校中学年頃から、自分と外の世界との違和感を感じるようになっていました。思春期特有の外側に現れる体の変化を友人に指摘をされてショックを受け、鏡を見て落ち込んで……と、一気に自分に自信がなくなってしまったんです。

中学では、些細なことでのいじめや、国語の文章問題で、正解を選ぼうとしても自分の思う正解がないから選べなかったり……。
自分はこうしたいという願望が受け入れられない状況に、進学するも、学校へ行くことを選ばない日々が多かったように思います。」

学生時代を終え、就職して働き始めた職場でもその違和感は続く。

「OLをしていたのですが、毎日変わらないルーティンに、ここでももやもやを拭えずにいました。」

そんな早﨑さんが出会ったとあるカフェが、転機となる。

見出した居場所


まだ、仙台にカフェが少なかった2000年前半。地下鉄河原町駅の近くにあった「Ship Street Cafe」に一度足を運んだ早﨑さんは、お店に通うようになる。

「午後6時から朝4時までやっていたお店だったので、仕事後に行って朝まで飲んで、家に帰らずそのまま会社に行くこともありました。楽しかったですし、お店には色々な客層の人が来ていて、世の中にはこんなに多種多様な人がいるんだ、と気付かされたんです。」

違和感を感じ続けたサラリーマン生活にはもう戻れない。
2年間のOL時代に終止符を打ち、早﨑さんは「Ship Street Cafe」で働き始めた。

元々Ship Street Cafeは、オーナーであるHiroさんが2000年に開いたお店。早﨑さんがお店で働き始めたことで、Hiroさん自身は次の夢の計画準備に入り、早﨑さんが店長となった。新しい居場所で、早﨑さんはさらなる自分の「居場所」に出会う。

「お店のお客様に、ヨガをされている方がいました。その方の勧めで、お店の定休日に公民館でやっているヨガ教室に行ってみたんです。」

人から自分がどう見えるかで悩んだ学生時代。ヨガを通して体を動かし、ポーズをとる中で腑に落ちた早﨑さん。

「ヨガは、誰かに評価されるものではなく、ただひたすら自分と向き合うもの。自分の内側を楽しむ時間なんだ、と。

自分にとってのあの苦痛な時期は、いわば、サナギの状態。内にこもっていた不満や違和感などのやりきれないパワーが、ヨガを通してバンッと開き、新しい世界が広がりました。」

現在、青葉区本町にヨガスタジオ「Studio goA(ゴア)」を運営する早﨑さんは、Hiroさんと共に、ポーズを取ることだけではなく、心との向き合い方や哲学を含めたヨガを伝えている。

海外で出会ったヴィーガン&ローフード料理


自分の内側と向き合うヨガに居場所を見出した早﨑さんが、ヴィーガン料理に出会うきっかけとなったのが、ニューヨークでのヨガのワークショップである。

「ヨガには様々な種類がありますが、ジヴァムクティヨガという種類のヨガワークショップに参加したことが、ヨガのイメージをまた新たにしてくれました。
ニューヨークのカップルによるワークショップだったのですが、ヨガのナチュラルな雰囲気とは真逆で、ハイヒールを履き、厚化粧で刺青だらけのルックスにびっくり。ニューヨークは自分の個性を出すところなので、そのかっこよさにしびれました。」

非暴力・動物愛護の精神を一番に掲げているというジヴァムクティヨガ。資格を取るための条件にあったのが、「ヴィーガンでなければならない」ということ。

当時、日本で主流だったのは、穀物や海藻などを中心とする日本の伝統的な食事法のマクロビオティック。玄米や根菜などの落ち着いた色合いの食材が多くなるのに対し、ニューヨークで触れたヴィーガン料理のカラフルな色に魅せられたという。

「野菜たちが奏でる色がとにかく鮮やか。ビーツの赤や葉物の緑は見ているだけで楽しくて、お肉を使わなくてもこんなに素敵なものができるんだと、ハマってしまいました。」

元々お肉料理やアルコールを提供していたShip Street Cafeを、早﨑さんは帰国早々ヴィーガンカフェに変えてしまった。

その2年後、ヨガのリトリートでバリ島を訪れた早﨑さんは、ローフードに出会う。

「バリは暑く、生のものを食べても体を冷やさないので、ローフードが盛んです。『加熱していないのにこんなに美味しいの?』という驚きや、野菜のカットの美しさにまたまた魅せられました。」

仙台にヴィーガンカフェが無かった頃、Ship Street Cafeのヴィーガンとローフードが選べるランチやオードブルは、ヨガ仲間を中心にオーダーが広がっていった。実店舗を閉じた今も、ケータリングやイベント出展でヴィーガンとローフードを広めている。

ヴィーガンという選択肢を伝える


2019年4月。早﨑さんは、塩竈にchariotをオープンする。

「すぐ側に仲卸市場があるので、オープンした頃、近所の方は『どうして魚の街なのにヴィーガンなの?』という反応でした。『魚ももちろん素晴らしい。でも、たまにはお野菜もどうですか?のスタンスでやっています』と言うと、なるほどねと分かっていただけましたね。」

最近では、お客様にも変化が出てきているという。

「男性のお客様が増えました。女性に比べて、お肉や濃い味付けから離れられない方も多いので、見た目から入っていただくのも良いかなと思い、最近は敢えてヴィーガン料理の店って出さなくても良いのかなとも思っています。ふらっと入って食べていただいて、『あ、今日の料理、お肉入ってなかったんだ』と気づく位。

色々な暮らしや考えの方がいるので、「ヴィーガンが良い」と断定するのではなくて、「ヴィーガンという世界もありますよ、どうですか?」というスタンスを伝えていくことで、ヴィーガンの選択肢もあることを知ってもらえたらいいなと考えています。」

熱を生み出しつづける

chariotの店内。活けられた植物のアレンジメントも早﨑さんによるもの
chariotの店内。活けられた植物のアレンジメントも早﨑さんによるもの

毎月のメニュー考案にケータリングやイベント出店、食やヨガのワークショップまで、早﨑さんの活動範囲は広く、話を聞いているだけでも目まぐるしいスケジュールだ。それでも、
好きなことをやれている今が一番輝いている、と早﨑さん。

「ヨガ哲学の中に、タパスという考え方があります。苦行と訳されることが多いですが、本来は、熱を生み、動かし続けるという意味です。

思い返してみれば、ずっと小さい頃は自由自在に自己表現をしていたし、興味があることには没頭するタイプの子どもでした。学生時代・OL時代にできなかったことを、今、料理やヨガで思い切りやれています。これからも、興味があることにはずっとわくわくしながら熱を生み出し続けたい。同じものを作るのではなく、せっかくやるなら新しいことをしたい。だから、コースのメニューも毎月変えたい。そういう熱意がすごくあります。」

動くことで熱が生まれ続けるという、早﨑さんの今後の夢は。

「フィンランドのような森の中に長いテーブルを置いて、ヴィーガン料理を楽しむ場を作ってみたいですね。子どもも大人も男女も関係なく、食卓を囲んでみたいです。」

いつか、絶対やります。早坂さんから、穏やかでありながらも熱の込もった返事が返ってきた。

最後に、店名のchariotの由来を尋ねた。スタッフと一緒に順番にタロットカードを引いて、たまたま全員引き当てたのがchariot(戦車)のカードだったことから名付けられているという。

「直感で決めたので、深い由来があるわけではないんです」と早﨑さんは言うが、奇しくもタロットカードの意味は、「実行力」・「強い意志」。早﨑さんが生み出す熱が引き寄せた、これ以上ない店名だ。



a good table ’ Chariot
塩竈市新浜町3-1-55
営業時間:11:00〜16:00(土日祝17:00)
ランチタイム/11:00〜15:00 【予約制】
デザートタイム/14:30〜16:00
定休日:木曜

公式Webサイト

Instagram @chariot_goodtable

撮影:蝦名信治

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