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【おみせの育て方】JAMCAFE 山路裕希さん(前編)

- 2019.04.26
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【おみせの育て方】JAMCAFE 山路裕希さん(前編)

仙台でお店を営む方が、どのようにお店を産み、育ててきたのかに関するインタビューをご紹介します。
今回は、宮城県仙台市青葉区で「JAMCAFE」と「gramme」の二つのカフェを経営する山路裕希さんにお話をお伺いしました。前編では、山路さんがどんな経験をしてきたのか、これからどんな目標があるのかをお伺いしました。

Q.仙台出身で大学が東京だったとお伺いしたのですが、その時にカフェに通われていたんですか?

そうですね。僕は本当にカフェとか、そういう文化を全然知らなかったんです。浪人しているので、地元の友達が一年早く東京に行っていたんですけど、久しぶりに遊んだ時にお昼を食べようってなったんです。
当時、その友達は渋谷のPARCOで働いていて、「この辺でランチの美味しいところがあるよ」って連れて行ってもらったのが、一番最初のカフェ体験でした。それから自分でも興味を持つようになって、カフェに通い始めました。

Q.カフェ以外に夢中になったことはなかったんですか?

全然無くて、ジムに通っていたぐらいです(笑)。小学校からバスケをやっていて、大学でもバスケ部でした。アルバイトも本屋や牛丼屋などいろいろやっていましたが、友達とかバイト仲間とつるむとか無くて。そういうことが苦手なので、一人で行動したり、地元の友達と遊んだりすることが多かったです。
内向的だったんですけど、東京に出て行くことに抵抗はなかったんです。新しい環境は怖くないけど、対人関係は苦手なんですよね。


Q.就職活動をされたと思うのですが、どんな仕事を希望されていたんですか?

企画職なんですけど、なんとなく面白そうって思ったんですよね。世間を知らなかったので、旅行会社でパッケージ作るとか、マスコミとか、面白い発案をする仕事が向いてる気がするなぁって。手当たり次第、なんでも受けていました。勉強も人並みにできたのと、口が上手いので(笑)、適性試験も面接もそんなに苦労はしなかったです。

Q.それだけうまくいっていて、なぜ就職しなかったのですか?

それは、僕がもともと対人関係が嫌だったので……。これは合ってなさそう、向いてなさそうって思い始めたのがきっかけで、会社に勤めるのはやめようと思いました。逃げの姿勢だったと思います。「よし、店をやるんだ!」というよりは、「嫌だから、就職をやめよう」って思ったのが前提でした(笑)。
嫌なことから逃げるには作るしかない!みたいな。自分を追い詰めた結果、出てきたのが「自分で会社を作る」ということでした。自分の好きなものだったらできるだろう、という考えでカフェ経営を始めました。

Q.仙台に帰ってくることは、決めていたんですか?

漠然と、東京でお店をやっても埋もれてしまうだろうと考えていたんです。そうしたら、「地元の仙台かな」って思いました。
そこで自分で目標というか、年表を作ったのですが、まず30歳までにお店を1店舗できたら上出来だと思っていたんですね。店づくりは簡単にできるものではないので、まずは現場で勉強しようと考えました。仙台に帰ってきて、自分の好きなお店で働かせてもらいました。26歳までなので、3年くらいですかね。自分でカフェを起業したい人は一度、働いてみたほうがいいと思います。飲食店は想像しているよりもめちゃくちゃ過酷なんで。


Q.この場所を見つけた経緯は?

僕が一番最初に働いたカフェが、元々ここにあったんです。結局、僕は辞めてしまって、他のところで働いていたりしていました。でも、社長に恩があったので、独立するという時もご報告して、「いいね」って終わってたんですけど。物件探しがうまくいかなくなってきて……そんな時に震災が起きたりして。そうしたら、ちょうど社長の旦那さんが東京にいて、ついていくことにしたそうなんです。もし良い物件がないなら、ここを譲るよってことで現金を払って買ったんです。空いている物件はあったんですけど、いい物件はやっぱ空いていないんですよ。飲食店は立地が全てなので、タイミングが合わなかったらもっと苦労してましたね。

Q.いよいよ、カフェを開くわけですが、どんなところが大変でしたか?

(窓の外を見て)こういう風に目の前は商店街なので、人の行き来はたくさんあるんですよ。でも、お店の中には入ってこないので、「この人たちはうちのお客さんじゃないんだ」って思いました。まだ、どんなお店かも広まっていないのに、ただ通っている人が入ることはあり得ないっていうことを当時は知らなくて、「なんでこの人たちは入ってくれないんだろう」って思ってました。
そこで、とりあえず看板にフードの写真を貼り付けました。よく、女性は視覚的な吸引力の方が響くってセオリー的に言われているんですけど、全然効果がなくて……「それ、嘘じゃん!」って(笑)。
こんなにいい場所にあるにも関わらず、お客さんが中に入ってくれないのはなんでだろうと、最初の一年はずっと悩んでました。本もめちゃくちゃ読んでましたし、東京のカフェ経営セミナーにも参加してました。

窓の外は商店街でアーケード通りになっており、たくさんの人通りが
窓の外は商店街でアーケード通りになっており、たくさんの人通りが

Q.人が入るようになったきっかけは何ですか?

僕の中では2つ心当たりがあるんです。1つ目は、一階の入り口にしっかりとした看板を設置しました。お店のロゴが入っていて、営業時間が書いてあるだけのものです。2つ目は、毎日ブログを書こうと思った時期があって、自分のことを発信していました。その2つが、影響があったなぁという気がしています。
結局、メニューの良し悪しというよりは、ここのお店の人がどういう人なのか、自分にとって場違いじゃないのか、そういう安心を与えることがお客さんにとって大事なことなのかなって思っています。
例えば、高級感のあるお店で、買い物袋をいっぱい提げて行って場違いだったら恥ずかしいじゃないですか。お客様も自分がその店にマッチングしているかどうか気になるところだと思うんですよ。その問題を解消させてあげる方法として、僕はブログを使っていました。そこで気づき始めたのが、新商品よりもどういう場所なのかっていうのを教えてあげるのが一番お客さんは安心するんだなって。今はインスタとか色々あるんですけど、その当時はアメブロで、毎日お店や自分のことを書いていました。

店名と営業時間のみのシンプルでしっかりとした看板が集客のきっかけに
店名と営業時間のみのシンプルでしっかりとした看板が集客のきっかけに

Q.だんだん経営も安定してきたんですか?

そんなことはなくて、昔はお昼過ぎたらお客さんがいなくなっちゃうっていう「ノーゲスト」って状況だったんです。その頃は絶望的な気持ちになっていました。夜は友達がお酒飲みに来てくれたりすると取り返したりできるんですけど、根本的な解決ではないんですよね。当時は夜の23時までやってたんですよ。
看板やブログと同じタイミングで、タバコが吸えなくなったり、子供が入れなくなったり、といういろんな制約をお店につけました。いろんなことを辞めていったんですけど、お客さんは減らなかったですね。これはもしかして、営業時間を短縮してもお客さんは減らないんじゃないかって思い始めました。当時は木曜定休だったのを定休日なしにして、営業時間を徐々に短くしていきました。

Q.新しいことをする時はすぐに決断するんですか?

そうですね、パッと決めます。スタッフにも「こうやるね」って言って、特に何にも聞かないです。みんな何も言わないけど、心の中で何かあるんじゃないですかね、きっと。
みんなで決めようとすると、時間がかかって遅いんですよね。どんどん鮮度が落ちていっちゃうので。結局、聞いたところで僕の中では決まっているので、変えることもないですね。


Q.2店舗目のgrammeがその後、オープンしますよね。

30歳までに1店舗、35歳までに2店舗っていう目標があって、もう自分の中でやることは決まっていたんです。なんとかJAMCAFEも軌道にのってきて、スタッフも揃ってきたので、余裕が出てきました。子供が生まれるタイミングでもあったので、もうひと頑張りしようってところで店舗を探し始めました。
grammeの場所にはもともと花屋さんがありました。ほとんど設備はなくて、ゼロからなので費用もかかりましたよ。

Q.結構チャレンジなお店だと思いました。カウンターの席がほとんどで、席があんまりないので。お店もシンプルで、出すものもコーヒーと焼き菓子だけっていう。

JAMCAFEと違うことをやるんだって決めていました。そんなところから始まって、自分の中でなんとなく、「うまくいくよね」っていうもので攻めました。
grammeの場所は仙台駅の中心部ではないので、しっかりやらないといけないなっていうのがありました。売れ線狙いというか、みんなこういうの好きだよねっていう感じで作りました。お金って女性が持っているし、流行も女性が作るので、もう女性がターゲットっていうところで行こうと。JAMCAFEはクールでかっこいい感じで、grammeはかわいいと思ってます。
無印良品みたいな、シンプルなかわいいものが流行り始めてました。そして、東京でも焼き菓子が流行り始めていたので、3年後くらいにはその流行りが仙台にも来るだろうからやっておこうと思って。東京のそういうお店が好きなお客さんはやっぱりgrammeにも来てくれていますね。BGMも明るくて風通しの良い感じの曲にしていて、オープン当初はユーミンを流していましたね。

Q.これからの目標はありますか?

grammeを無くして、東京にお店を作ろうと思っています。4月以降は不定期で営業する予定です。決算の8月までは続けて、あとはやりたい人がいたら売却します。
今、東京もカフェが減ってきているので、東京でお店を出したいんです。そもそも、「仙台にかっこいいお店がないので、自分で作りたい!」っていう気持ちで始めんたんですよね。
野心というか、反逆心みたいなネガティブな気持ちで動いていたんですけど。最近、そういう気持ちがなくなってきたので、改めてそういうパワーでお店を作りたいです。僕は東京からカフェという文化を教えてもらったのに、カフェ然としたお店が少なくなってきて、東京はそれを捨ててしまうのか!っていう想いです(笑)。JAMCAFEは街中の一等地で何も分からないままやってきて成功させて、grammeは中心部から外れたところだったので流行りも取り入れて、「売る」っていうところを狙って成功させてきました。今度は東京という街に恩返しをしつつ、自分のセオリーが通用するのかどうかを試したいです。自分がやってきたことが間違いじゃなかったということを証明したいので、そういう意味での東京出店になります。「今に見てろよ」っていうパワーと、「自分の力を試したい」っていう気持ちですね。


「自分の就職先を自分で作る」、「自分の好きなことをやる」逃げの姿勢から挑戦的な行動へとすぐに実行する、行動力と決断力が今のカフェ運営に生かされているのだと感じました。また、常にお客様の立場になって考えたことが、JAMCAFEでの快適なカフェ時間に繋がっているのではないでしょうか。

さらに、後編ではお金のことやメニュー作りなど、経営でのポイントについてさらに深く教えていただきました。
→後編はこちらから

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山路さんがカフェと暮らしについて綴る「note」もぜひご覧ください。
https://note.mu/yuki_____

JAMECAFE
宮城県仙台市青葉区一番町4-5-20-松葉屋ビル2F
11:30-21:00
不定休
http://the-master-plan.com/jamcafe/

焼き菓子と珈琲のお店 gramme-グラム-
宮城県仙台市青葉区国分町3-9-1
営業時間、営業日は不定
http://the-master-plan.com/gramme/

写真:opentown 小林啓樹

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