くらしとおやつ 塩レモン
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
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さっぱりしたものが食べたい。冷たいものが食べたい。
暑さが続く日々、幸か不幸か、食べたいものの種類が変わるだけで、食欲は一向に衰えない。
皆さっぱりを欲するからか、夏になるとおやつもレモン味のものが増える。
レモンシャーベット、レモンシロップのかき氷、レモンスカッシュなどなど……名前を耳にしただけで爽やかな香りが吹き抜けるような気がするから不思議だ。
しかしながら、レモンの旬は、夏ではなく冬なんだという。
国産のレモンは9月頃から収穫がはじまるが、その色はまだ青く、黄色く熟したものは12月〜3月に収穫されるそうだ。
そんな実際の収穫とのギャップはとりあえず置いておいて、やっぱり爽やかな香りときりっとした酸味は、夏に欠かせない。
というわけで、今回は私のレモン偏愛について書こうと思う。
まず、他の柑橘系のくだものとの決定的な違いは、その形にある。
丸い果実の両側がきゅっとすぼまっていて、その名の通り「レモン型」というが、私はその形を見ると、カレーパンマンを連想してしまう。なんともユニークな形だ。
レモンの味は?と聞かれると、多くの人は「酸っぱい」と答えるだろう。
レモンそのものにかぶりつくことは少なく、くし切りにされ、料理に添えられることが多い。唐揚げも、焼き魚も、くし切りをきゅっと絞るとあら不思議、脂ものもさっぱりと食べられる。
そしてなんといってもレモンの香りを褒めたい。レモンを絞った瞬間に立ち上る香気、その場の空気がきゅっと引き締まるような酸味、それでいてフルーティ。気持ちが明るくなるような香りがとても好きだ。
そして私は知っている。
レモンはただ酸っぱいだけで終わらない果物なのだ。
そもそも私がレモンの威力に魅せられたのは、とあるお店で「レモンクリームパスタ」なるものを食べてからである。
たっぷり濃厚なクリームソースにからんだパスタの上に、レモンの輪切りがひらり。
フォークにからめて麺を口に運ぶと、口中に爽やかな香りが広がった。
濃厚なだけでは終わらない爽やかな味は、脇役として添えられたレモンとは違い、完全にメインとして君臨していた。
それ以来、度々そのレモンクリームパスタを食べに足を運び、しまいには自宅でもその味を再現したいと繰り返し作るようになった。
おやつの連載なのでパスタの作り方は割愛するが、二人分の麺の量に対し、レモンはくし切り1個分が目安。ニンニクと一緒に細かくみじん切りにし、弱火でオリーブオイル、塩大さじ1と一緒にじっくり炒めるのがコツ。
とにかく、満腹中枢を猛烈に刺激する香りだ。
ちなみに「レモン汁なら調味料にあるよ」という方、はっきり言います、だめです。「汁」ではなく、レモンの旨味は皮にあるから。
今回おすすめしたいのは、塩レモン。作り方はとても簡単。レモン1個を5mm幅くらいの輪切りにし、1枚につき塩小さじ2杯をなじませるようなイメージでふる。あとは保存容器に入れて冷蔵庫で置くだけ。レモンは皮ごと使うので、防腐剤不使用のものをおすすめする(最近ではスーパーでも農薬不使用かどうかの表記があります)。
数日放っておくととろりとした果汁が出て来て、不思議なことにあんなに酸っぱかった味がまろやかになり、皮もしんなり柔らかくなっている。
この塩レモン、パスタだけではなく、鶏肉と一緒に焼いたり炒め物に加えたりと、何かと重宝するのでよく冷蔵庫にスタンバイさせている。
さらに、効果を発揮するのは料理だけではない。
暑い日の朝、しっかり冷やした水に塩レモンを入れて砂糖やはちみつを加えると、熱中症防止のおめざドリンクになる。
チーズケーキ、クッキー、マフィン、パンケーキ、がっつりした粉物系のお菓子にも相性抜群で、生地に練り込むとほどよく爽やかな風味を足してくれる。
フランスの伝統的なお菓子「ウィークエンドシトロン」は、レモンをたっぷり使ったパウンドケーキだ。作ってから一晩以上おくことでレモンの甘酸っぱい味が定着してより美味しくいただけるという。塩レモンも同じ原理といえるかもしれない。
「週末に大切な人と食べるケーキ」とも呼ばれているロマンチックなケーキだが、専ら、おやつにおいては待てない性分、特に暑いこの時期、思い立ったらすぐに手軽に楽しめるものとして推したいのは、バニラアイスに塩レモンひとかけ。アイスのクリーミーな甘さと酸味のコンビは立派なデザートだ。
さっぱりしたものが食べたい。冷たいものが食べたい。
さりとて、東北の夏は短い。既に朝晩はひんやりとした風に秋の気配を感じる。
暑い、と感じるうちに、沢山夏らしいおやつを食べておきたいから、塩レモンを冷蔵庫に常備する。塩レモンとカップアイスの蓄えがあれば、それだけで夏のおやつの心配はしなくていい。
レモン本来の酸味を、塩がうまみに変える発明的な美味しさの塩レモン、大袈裟だと思った方にこそ、試してほしい。
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