くらしとおやつ 「Satomi Kiln(サトミキルン)」のスコーン
おやつが好きだ。
どんなに疲れていても、少々嫌なことがあっても、
おやつがあれば、大抵のことをリセット出来てしまう。
そんなおやつについて、エピソードや私自身のこだわりを綴っていく。
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器と靴は似ている。
「おしゃれは足元から」ならぬ「料理は器から」。
靴が良いと装いが引き締まって見えるように、器が上質だと、料理もおやつもそれだけで3割、いや、5割増くらいに見える。
だから、良い器を選びたい。セレクトショップなどで、宮城でも他の地域の器を手に入れることができるが、できるだけ、窯元があるその土地に赴いて選びたい。
そんな想いから、昨年の秋、小鹿田(おんた)焼の窯元のある大分県日田市を訪れた。
小鹿田焼は、しっかりとした厚みが普段使いに適していて、器一面をぐるっと囲むように、細かい線模様が入っているのが主な特徴だ。これは「トビカンナ」や「ハケメ」といって、実際にカンナや刷毛を使って、職人の方がひとつ一つ描いた模様である。
初めて訪れる小鹿田焼の里。期待を胸に、現地で借りたレンタカーに住所を入れて走り出すも、車が山道を進めば進むほど不安になってきた。
「こんなに奥地であっているんだろうか?」
対面車両が来れば同時には通れない程の狭い山道は、うねうねとひたすら続いていて、終いには濃い霧まで立ち込めてきた。
引き返そうとしたその時、ささやかな「小鹿田焼方面」の看板が現れる。小鹿田焼の里は、山合いの小さな集落だった。
車を降りて歩くと川が流れていて、川の辺りから規則正しく響いてくる音がある。近づいてみると、音の正体は川に組まれた水車だった。小鹿田焼の土は、この水力を利用して砕かれているという。川の近くには窯が連なるように並んでいた。これは登り窯とよばれる伝統的な窯で、小鹿田焼はここで焼かれているのだ。
集落には軒先に器が無造作に並んだ窯元が10軒点在している。伝統的な模様を忠実に守っている窯元、ギャラリーのように器が陳列された若い職人の窯元、10軒の中にもそれぞれの個性が垣間見える。
お気に入りを見つけたのは、まるで倉庫のように大小様々な器がうず高く積まれた窯元だった。灰色がかった緑色に「ハケメ」が入った大皿。何を乗せても映えそうだ。
辺りを見渡しても人気がないので、建物の奥をのぞいて声を掛けたが返事がない。
「ごめんくださぁぁい」と声を張ると、しばらくしてのっそりとおばあさんが顔を出した。
「これお願いします」と大皿を手渡すと、無言で器を新聞紙に包み、会計を済ませるとさっさと奥へ戻っていった。
決して愛想たっぷりの応対を期待していたわけではないのだが、あまりのあっさりぶりに、そしてその職人らしさを、かえってあっぱれだと思ってしまった。
小鹿田焼の歴史は300年。1つの家族からはじまった窯元が、3世紀に渡って脈々と受け継がれている。天候や自然の移り変わりを感じ、毎日土と向き合いながら、生涯に渡って使い続けることのできるものを生み出す彼らにとって、一見さんである私はあまりにも儚いものなのだな、おばあさんから器を受け取った後、そんなことを思った。
窯元から持ち帰った大皿は、我が家の食卓で大活躍中だ。カレー皿になったり、パスタ皿になったり、おやつならば、ざっくりとおかきを入れて使うのも気に入っている。食べ物を乗せた時にこそ、この小鹿田焼は威力を発揮するのだ。
またいつか、九州にルーツのある器を見て回りたいと思っていたところ、思わぬ場所でそのきっかけを得ることとなった。
仙台市青葉区にある東照宮から、住宅地の中を6〜7分歩くと、雑木林の残る小さな公園のような場所にたどり着く。「台の森プロジェクト」と名のつくこのスペースには、レストランやギャラリーといった拠点が集まっている。
その中の1つである「Satomi Kiln」には、陶芸工房とカフェが併設されている。
店内の棚には、形も大きさも様々な器が並べられているが、そのどれもが白い。これまでに私が訪れたことがある黒や茶色の器が並ぶ、土っぽさのある陶芸工房のどれとも似ていなかった。
天気の良いある日の午後、ここで、久しぶりの友人たちと昼食をいただいた。
建物の扉は全て開け放たれ、店内にいても清々しい風をいっぱいに感じられる。広々としたウッドデッキのテーブルで過ごすのも間違いなく気持ちが良い。
カフェスペースの隣の工房では陶芸教室が行われていて、生徒の方々が黙々と土に触れていた。
ゆったりと時間が流れるここの風景に、なぜか、昨年訪れた小鹿田焼の里を重ねた。
山奥の集落ではないが、小さくも静かな森がある。職人の方々が自然を感じながら器を作る場所であり、家々が立ち並び、そこで暮らす人々の生活が感じられるからかもしれない。
そんな「Satomi Kiln」では、日替わりのスコーンが人気である。毎日数種類の味が焼かれていて、まとめて買っていかれる方も多い。
是非ともいただいて帰らねばと注文し、目の前に運ばれてきたスコーンに目を奪われた。
程よいサイズの四角形。1つはプレーン、もう1つは人気の味だというラズベリーとホワイトチョコがけ。こちらはラズベリーパウダーの赤が映えてはいるが、どちらかといえば、地味めの佇まいだ。
なぜ私は目を奪われたのか。
器だ。白磁の器はスコーンを乗せた途端、化けた。
ほんのりと透けるような水色がかった白磁の器の縁は、花びらのような曲線を描いた形で、まるで、洗い立てのレースのクロスのような軽やかさでスコーンを受け止めていた。
「Satomi Kiln」の田代里見さんにお尋ねすると、土は、熊本県天草の陶石だという。青みがかった白は、釉薬の中に調合された天然のナラの木の灰によるもの。形は違えど、九州に少なからずルーツのある器の多様性に驚かされた。
「白磁の白に魅了され、白のみの表現、美しさを求めた作品を、40年模索しております」と里見さん。炎の芸術といわれる様に、焼き方で大きく色味が変わるという。
焼き上がるまで仕上がりが分からないのが器の奥深さ。最後の窯焚きによって、またひとつとない白い色と質感が生まれる。だから魅せられる。里見さんの探究心は尽きない。
そして、焼き上がりに胸が高鳴るのは、焼き菓子も同じではないだろうか。「Satomi Kiln」のスコーンは、ほろっとした食感は小麦の味が深く、いつまでも噛み締めていたい味だ。
里見さんの焼く器、その上で映える息子の成さんが焼くスコーン。
2つは親子のように息がぴったりだ。
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Satomi Kiln
仙台市青葉区台原6-13-5営業時間
月・火・木 12:00~17:00
金・土・日 12:00~17:00 夜 18:00~22:00
定休日:水曜日Instagram @satomi_kiln