【聞くまち・立町】移り変わる定禅寺通で、変わらない味の洋菓子を
枯れて葉の落ちた定禅寺通のケヤキ並木は、例年より少しだけ早く電飾をまとった。日が落ちると大通りの並木が一斉に輝く、SENDAI光のページェントの季節。大通り中央の遊歩道を歩いていけば、冬の仙台のもう一つの時間が始まるような胸の高鳴りがある。
仙台の整然とした街の美しさを象徴する「定禅寺通」西側の立町には、創業51年目の老舗洋菓子店「とびばいさ 甘座(あまんざ)」が店を構える。レトロな金文字で店名が刻まれたガラス扉を開け、工場長の渡邉靖水さんに、この街についてお話を伺った。
街を見守り続ける、創業51年目の洋菓子店
「甘座」は1968年、靖水さんの父・了介さんが開業。仙台の老舗和菓子店「売茶翁(ばいさおう)」の三男だった了介さんは東京・六本木の洋菓子店で10年間修行したのち、仙台・国分町に洋菓子店を構えた。
「下校途中に買っていく女子学生や教会のシスター…….ちょうどみんな甘いものを買うようになってきた時代で、色んなお客様で賑わっていたようです。開業当時のお客さんが今、お子さんやお孫さんを連れて来て、当時のようすを話してくれることも多いんですよ」
そう微笑む靖水さんへの取材中にも、お店には幅広い世代のお客さんがひっきりなしに訪れる。
せんだいメディアテークを有する文化的な大通り
定禅寺通に面した現在のお店は元々は2号店で、国分町店が火事で焼失してからは現店舗のみでの営業に。立町にお店を構えて約40年、お店は街の移り変わりを見守り続けてきた。
「店ができたころはこの辺はまだケヤキの木も細くって、とても暗い場所だったんです。この場所でお店ができるの?って言われたこともあるくらい(笑)。それが、せんだいメディアテークができたあたりから劇的に変わっていった印象です。『仙台を代表する通りに』という仙台市の政策もあり、どんどん明るく、注目される通りになっていきましたね」
建築家・伊東豊雄さんの設計で2001年に開館した「せんだいメディアテーク」は仙台市民図書館や美術作品の展示スペース、映像資料の視聴空間などを有する地下2階地上7階建ての大規模文化施設で、文学やアート関連のイベントが催されることも多い。西端には仙台市民会館もあり、文化施設を有し整った街並みが印象的な定禅寺通の西側は、今では独特の落ち着きと品のよさを感じられる通りとなっている。
「実験」をやめないメインストリート
1985年開始の「仙台・青葉まつり」、1986年に始まったSENDAI光のページェント、そして1991年から続く定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、今では一年を通じて仙台を代表する華やかなイベントの舞台となる定禅寺通。子供のころからこの街に暮らす靖水さんも、成長とともにこの大通りが賑やかになっていくようすを肌で感じてきた。
「小学校低学年のころ、光のページェントが初めて開催されるときに、家族でイルミネーションが点灯する瞬間を見ていて。とても感動したのをよく覚えていますよ」
暮らしを楽しくするようなイベントを市民が主体となって仕掛けていく動きは今も変わらず、定禅寺通ではさまざまな実験的な試みが行われている。東北各地の有名なカフェやベーカリーが野外出店する「GREEN LOOP SENDAI」や、個人が青空の下古本を売ることができる「一箱古本市 定禅寺ブックストリート」など、休日には大通り中央の遊歩道スペースを最大限に生かした多様なイベントに出会うことができる。
「新しいものと変わらないものとが混在して価値を上げている」
あらゆる新しい試みの舞台となるこの大通りだが、靖水さんはこの街のよさを「新しいものと変わらないものとが無理なく混在していること」だと表現する。
「昔から続いているお店も多く、商店街の人々がよく顔を合わせていて、うまく連携できていると思います。新しいお店も商店街にしっくりと馴染んで、みんなでみんなの価値を上げているような雰囲気がありますね。お店同士がしっかり連携できているから、新しい試みや社会実験をする際にもスムーズにできるのだと思います」
広瀬川からの風を感じ、ケヤキ並木で四季を知る
定禅寺通の西側から南に広がる立町は、中心部の一番町や繁華街・国分町のすぐそばでありながら、人通りが多くはなく落ち着きのあるエリアだ。新緑、紅葉、イルミネーションと四季それぞれの豊かな表情を見せてくれる大きなケヤキ並木はもちろん、定禅寺通西端まで歩いていくとそこは西公園。広瀬川もすぐそばを流れ、川を渡って青葉山方面へ行けば仙台市博物館や宮城県美術館で自然を感じながらゆったりした時間を過ごすこともできる。
「四季を感じられる、いい場所だと思います。ケヤキ並木は夏の暑さをしのいでくれるし、広瀬川の方から吹いてくる風も気持ちがいい。西公園、勾当台公園、錦町公園といった街中の公園にもすぐにアクセスできる位置でもあり、街中ながら自然の豊かさを感じられますね」
移りゆく街で、変わらない味でそこにあり続ける
定禅寺通沿いで街の変化を見続けてきた「甘座」。靖水さんが工場長となり、弟さんが二代目を継いだ今も、お店の商品や製法は創業当初からほとんど変わっていないのだそう。薄皮でクリームがたっぷり入ったシュークリームやエクレア、素朴でほっとする優しい味わいのチーズケーキ……。甘座のお菓子は、仙台に久しぶりに帰省したお客さんからも「この味が食べたかったんだ」と言われるような「懐かしい地元の味」であり続けている。
「何を食べさせたいのか、という『伝えたい味』をシンプルにガツンと表現するのが甘座の洋菓子。余計なものを入れずシンプルに、というこだわりは、創業した父が元々和菓子作りから出発しているからなのかもしれませんね」
近くのオフィスで働き、商談のために甘座のお菓子をお土産に買って行く会社員、遠方から家族連れで訪れるお客さん、いつものケーキを選んでいく常連さん、ふらりとお店に立ち寄ってエクレアを買って行く若者…….季節が過ぎ、街の表情が移り変わる中で、甘座は今日も変わらない味でその場所にあり続ける。
「新しいお客さんにとっては、ケヤキ並木を見に来たらこういうお店があったんだ、って立ち寄ってもらえたらと思いますし、常連さんはお店目当てで来て、通りの並木の美しさに、はっと気付くのかもしれない。みんな、この定禅寺通まで何を思って歩いてくるのかなって、よく思いをめぐらせるんです。定禅寺通をここまで歩いてきて、ここに来てまで食べたい、ここで時間を過ごしたい。そう思われるお店であり続けたいですね」
とびばいさ 甘座
宮城県仙台市青葉区立町26-16
tel. 022-263-7229
営業時間:10:00〜19:00
定休日:月曜日